潮騒ちゃん

しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイスの潮騒ちゃんのレビュー・感想・評価

4.6
モードが愛した古い窓は、いつからここに合ったのだろう。風を入れ寒さをしのぐための質素な木枠。ぼやけたガラスを覗きこめば殺風景に広がる季節。通りすがりの夏と長くて厳しい冬。一人ぼっちだったこの窓は、じっと動かず彼女の訪れを待っていた。モードがエベレットを見つけ、エベレットがモードを招き入れる。気遣いも優しさも人の気配で取る暖も、とっくに忘れてしまっていた。覚悟するまでもなく二人は独りきりで生きていた。男と女だからという理由だけでは簡単に近づけない。自分がどんな人間か知っているから。だからこそ時間をかけた。それだけは沢山あった。緑を足し、橙を足し、空色を足した。ぽつりぽつりとモードの花が咲いていく小さなお家はいつしか二人ぼっちの場所になった。エベレットの眉間のシワがモードをクスクスと笑わせる。モードの絵の具で汚れた指がエベレットをぐっすりと眠らせる。歩幅を合わせる術すら知らなかった二人が、痛いところを分け合えるまでになった。序盤から何気ないシーンでボロボロ泣いた。かわいい色がつく度に止められなかった。愛しいとか切ないとか、感情を意識する必要もなかった。モードは愛を描いたつもりはないかもしれない。特別な思いがそこに込められていたかはわからない。ただもしも、しあわせに色があるのなら。わたしが浮かべたいのはこんな色だ。
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