潮騒ちゃん

素晴らしい一日の潮騒ちゃんのレビュー・感想・評価

素晴らしい一日(2008年製作の映画)
4.4
この男によく似た人を知っている。「オレはここまでダメじゃないだろー」と本人は言うだろうけどいいえ十分、そして存分、あなたはダメな人でした。ひとたらしのろくでなし、ビョンウンの前に現れたのはかつての恋人ヒス。再会して一秒、挨拶もなしに「お金返して」と迫るヒスの眼差しは剣呑に尖っている。別れたのは一年前。貸してた金は350万ウォン。全額取り立てるまでヒスは絶対に帰らないという。無職宿無しの身でありながら競馬場に通うようなビョンウンに持ち合わせがあるわけもなく、こうして二人の集金珍道中がはじまった。空気が淀む気まずい車内、軽快に響くのはビョンウンの与太話。よくもまあそんな下らん事をとりとめもなく。借金を取り立てられているとは思えない呑気ぶり。どうしてそんなに調子がいいの。のらりくらりとなついてかわして。どうすればそこまでいい加減に生きられるの。憎めない人を憎まなくてはいけないストレスを、あなたはちっとも分かってない。許しと失望の繰り返しでわたしの笑顔は枯れてしまった。ブスな顔であなたを睨んでばかりいた。別れる時幸せだったのはこんな自分とおサラバできるから。本当に呆れた人。好きだったところなんて今更思い出したくもない。見返りなしで手を貸したり、テキトーな言葉で相手の呼吸を楽にしたり、そういうところも嫌いなの。ああ、やっぱりあなたは変わってない。…黒いアイメイクで武装したヒスがいつかの自分に重なった。長くしんどい一日が終わろうとしている。冷えきっていたはずの感情が今、妙にぬるい。戻ってきたのはお金。そしてほんのちょっとの何か。車内から見届けるあなたは相変わらずのトボケ顔で笑ってる。勝手にやっとけ。その調子でやっとけ。ほんとバカだよなーって噛みしめたら思いがけずやさしく笑えた。
潮騒ちゃん

潮騒ちゃん