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ベルファスト71のようのレビュー・感想・評価

ベルファスト71(2014年製作の映画)
4.5
ケネス・ブラナー監督作『ベルファスト』の評判がいいらしいので検索してたら、そのついでに見つけたこの作品。
たまたま出会った作品が当たりでした。

キャストには知ってる顔も。
バリー・コーガンはすぐわかる。役的にすごい目が離せなくなるポジション。
ショーン・ハリスはしばらく「どっかで見たことあるなあ」って感じだったけど、抑えたトーンで喋ってる時のハスキー気味な声でわかった。

アイルランドのベルファストに赴任したばかりの新米陸軍兵が、ある出来事からたった一人で逃げ回ることになる話。
その〈ある出来事〉のくだりがすでにカオス状態で素晴らしかった。
住民はワーワー、ガンガンうるさいし、主人公たちの軍隊は何かあれば発砲しそうだし、警察は幼子を抱える若い母親を惨い尋問してるしで、混沌としてる。
そこから最悪なことまでの転がり方がえげつない。風船が一気に膨らんでちょっとしたことで割れてしまう感じ。

そっから主人公の逃亡が始まってからは、街中だけの逃亡とはいえ、逃亡モノらしい面白さがある。
主人公を追いかけ回すチームもあれば、助けてくれる人もいる。ただ、主人公にとってはどの人がどの立場の人なのかわからないのがまたスリリング。
序盤に主人公たちが「この地区はイギリスに友好的な住民と敵視してる住民が並んでる。穏健派も過激派もいる」ってレクチャーを受ける。
自分はこのアイルランドの情勢についてほとんど知らなかった。なので、観ながら「どの人がどのスタンスなの?」ってすぐ判断できない状態ではあった。それが主人公に近い感覚で、むしろプラスにはたらいた。
いろんなスタンスの人がいる複雑さがあるし、同じ立場の人でも行動の温度差があって、それがまた混沌さを増す形になるし、終盤のスリルにつながってる。

最後も「忘れろ。それが戦争だ」とまで言われる。
戦地から戻ると、ちょっとしたことで粗野な態度をとってしまうアイツ。それを見てると、命が奪われなくても必ず何かは奪われるのが戦争なのかもと思ってしまう。

派手さはない作品だけど、逃亡モノの娯楽性を担保しつつ、紛争・戦争の暴力性があらゆる人を傷つけていくことを強制的に味わされる映画。
充分な見応えのある作品だった。
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