磔刑

ボス・ベイビーの磔刑のレビュー・感想・評価

ボス・ベイビー(2017年製作の映画)
4.4
「上司にしたい赤ちゃん堂々のNo. 1」

絶対設定一本勝負のネタ映画だと思っていたが完成度高すぎてビビる。

最初の赤ちゃん製造工場の描写だけで荒唐無稽な設定にすんなり入っていける。ティムとボス・ベイビーのデコボコバディが本当の兄弟になるまでの描き方もコミカルだが心に響くよう計算されて作られている。
猪突猛進のジェットコースタームービーでありながら、巧妙に撒かれた伏線。それを綺麗に回収、更には重要なプロットポイント(ティムの成長、新たな葛藤)にする事で物語に抑揚とリズムを作り出し、作品をより感動的なものにしている。ティムの兄としての成長をフューチャーしたいくつかの場面は大きなカタルシスを生み、自転車の補助輪とブロックのくだりはそれを顕著に表している。特にティムがボスの為に子守唄を歌うシーンは涙なしには見れない本作最高のシーンである。

もしこれがディズニー作品だったなら『リメンバーミー』や『モアナ』ぐらいにクドく演出するであろう感動的なシーンであっても、溜めも少なく、余韻もそっちのけで速攻次のシーンにいく薄味な物語運びが実にドリームワークスらしい。
ラストのブロックのくだりまでのセリフの少ない心情描写重視の演出はドリームワークスらしからぬ繊細さで、ティムの成長と共にドリームワークスの成長を感じられる。そんな観る者の心を打つ演出を的確かつ、最も効果的な場面で描く嗅覚の鋭さが作品の質を数ランク高めているのは間違いない。

一つだけイマイチな部分を挙げるならオープニングのモノローグの演出だ。子供目線の物語の割には達観した視点で物語を語るので(コメントに追記しているが、特に劇場公開版)、子供染みた世界観に入り込み難くなってしまっている。まぁ、それがエディングに繋がるのだが、それにしても掴みとしては不適切な演出に思える。それに後々に大人になった2人や、その子供を出す事がそれほどうまい手法には思えない。

全体のユーモアもキレッキレで、赤ちゃんとビジネスマン、二つの顔を持つボスの二面性が生き生きと演出し、作品の力点にている。特に完全に赤ちゃん化した姿は爆笑必至ながらも、赤ちゃんの愛くるしさをよく捉えており、キャラクタービジネスの面でも完成されている。
ティムとボスもただのコミカルな関係性ではなく、弟を迎える兄の不安感、疎外感、焦燥感などの兄弟を持つものなら誰でも感じた事があるであろう普遍的なジレンマを下地においているので、ユーモアまみれの行動や展開の一つ一つに説得力が損なわれる事はない。加えて少子化問題、ネグレクト、過剰なペットブームといった現代社会の問題を物語に組み込むことで、荒唐無稽な子供の視点だけでは不安定になるであろう世界観の基盤をしっかり補強しており、大人が鑑賞しても十分楽しめる内容に昇華している。

最近のドリームワークスは低迷気味だったが、それを払拭する最高級の出来栄なのは間違いない。私的には続編熱烈希望なので、おしゃぶりでも咥えながら気長に待ちたいと思う。
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