くろみまりこ

ズートピアのくろみまりこのレビュー・感想・評価

ズートピア(2016年製作の映画)
4.5
まさかの今年の暫定ベスト映画。(しかもぶっちぎりで。)
今年中にこれを越える作品に出会える気がしないレベルの傑作。私のなかでディズニー長編3D映画のダントツ1位な作品になりました。予告映像がパッとしなかったのもあってここまで面白い作品だとは予想していなかったのだけれど、とんでもなく素晴らしい作品だった。

映画開始直後からもう既に面白い。弱肉強食ヒエラルキーは過去のものだという、動物界の進化の歴史が簡潔かつユーモラスに描かれる。掴みは抜群。その後、主人公ジュディが警察官を目指しズートピアへ"上京"するまでの過程や努力のエピソードが非常にテンポよく物語られ、ずっとワクワクしっぱなし。
この序盤で感じたワクワク感がどこまで持続するかというと、なんと映画が終わるまで途切れることなく続く。これがこの作品のスゴイところだと思う。
「次はどんな光景が目の前に広がるのだろう?」「この先にはどんなキャラクターがいるのだろう?」という期待がひとときも休まることはない。そしてそれは、常に未来に希望を持って何事もあきらめないジュディの姿勢と重なるのだ。まるでジュディと同じ目線に立って一緒にズートピアを冒険しているような気分にさせられる。
今作の大きなテーマのひとつは『夢をあきらめないこと』なのだけれど、そのメッセージが登場人物の台詞や説教じみたストーリーからではなく、観客がジュディと一緒にズートピアを冒険しワクワクを共有することで、映画全体から自然に感じることができるようになっている。
侵入→逃走や追いかけっこの構図が何度か繰り返されるのだけれど、そもそもの舞台が面白いから単調なループ展開とは感じない。むしろズートピアの街中をどんどん探検できるので、飽きることがまったくない。

なぜこんなにもワクワクが持続するかといえば、やはり"ズートピア"という世界の非常にリアリティ溢れる描き方、ブレない世界観の魅力に尽きると思う。生物的なヒエラルキーから解放された自由で個性豊かな動物たちや、さまざまな生活様式、オリジナリティに富んだ技術や文化など、ひとつの大きな架空の世界を構築している要素が細かい部分まで丁寧につくりこまれている。ただの理想卿としては描かれず、スラム街で海賊版DVDを売っている者がいたり、オトナ向けの地下の怪しい全裸ヨガ教室があったりと、子供向けではないエリアが存在しているのも凄くイイ。
この感動、何かに似ているなと感じだのだけれど、たぶん『スター・ウォーズ』だと思う。さまざまな環境を持つ惑星やエイリアンの社会の細やかでリアルな描写は、私たちに「どこか宇宙の果てに、本当にこんな世界があるかもしれない」と思わせてくれる。そんな感動と非常に近しいものを感じた。
要するに、この"ズートピア"という街を舞台にしていくらでも物語ができそうなのだ。ジュディの警察学校時代だけでも一本映画が作れそうだし、マフィア軍団まわりでもまた一本作れそう。ガゼルが活躍する物語も見てみたいし、アパートの隣人とのやりとりももっと見てみたい。街を歩く名前のないモブキャラひとりひとりまで「あの人はどんな生活してるんだろう!」とワクワクしてしまう。どこをクローズアップしても、いくらでもドラマができそうな気がする。こんな映画が世界にどれだけあるだろう。

人外生物の社会を扱った映画は過去作品でもたくさんあるが、この映画で描かれる社会が抜きん出て素晴らしい理由は"キャスティング"の面白さにあると思う。
それぞれの動物の体格、強さ、表情、大きさ、我々がもつイメージなどに、キャラクターひとりひとりの役回りが気持ちよいほど似合う。そしてそのバリエーションもとてつもなく豊富。これはひとえに、作り手側が動物の生態や骨格を研究しつくさなければ表現できないことだからチョーエライ。『擬人化してしまえば、特徴や生態の描写に融通が利く』と思われがちだけれど、まったくそんなことはないということが分かった。ひとつのモチーフのあらゆる面を研究しなければ、リアリティとユーモアを両立させることはできないのだと思う。ズートピアではその成果が如実にあらわれている。
スター歌手"ガゼル"と、バックダンサーである"虎"という構図ひとつとっても、よく考えてみれば捕食者と被捕食者からの解放を印象づけるものだったりするわけだけれど、それ以前に歌姫ガゼルと虎ダンサーというポジションが似合いすぎてとても自然に思えてしまうし、絵的にも気持ちが良い。

ズートピアはそんな要素ばっかり。伝えたいメッセージやテーマありきの配役・演出ではなく、まずキャラクターや世界の魅力をみせつくしてからその先に作者の主張を自然に感じ取らせるようなものになっている。人間社会を動物にあてはめたただの寓話的な道徳絵本にはまったくなっていないのが、この作品が大好きな理由だと思う。
予告トレーラーの「あきらめない。なにがあっても・・・」というテロップを見た時はいかにもディズニーらしいメッセージだなぁと、ヒネくれた私はしょっぱい気分になったのだけれど、本当にごめんなさい!と反省。

「良い年して子供向けのアニマル映画を見るのはちょっとなぁ...」と思っている人にこそみてほしい作品。日本版の予告映像は少々地味なので、シャキーラとコラボしたメインテーマのMVをトレーラー代わりに見るのも良いかと。
声を大にして「オススメです!」といえる一作。