くろみまりこ

君の名は。のくろみまりこのレビュー・感想・評価

君の名は。(2016年製作の映画)
3.3
決して退屈な映画ではないのだが、観る側の脳内補完力が試される作品だった。
主人公二人の恋愛、彗星事故、家族関係、あらゆる面においての"過程"のストーリーテリングが中途半端に省かれ、美しい絵面と歌詞付きの音楽で無理矢理おしきろうとしている感が否めない。雰囲気づくりとハッタリが非常にうまい作品だというのが鑑賞後の率直な感想。

ストーリー上の矛盾点や弱点を
「まぁ、そういうもの(こと)なのだろう。」
と、なんとなくの雰囲気だけで観客になんとなくわからせていったため、監督のやりたいことや見せたい絵面のために都合よく話が運び、ラストも取って付けたような感動シーンにしか見えず蛇足に思えた。
偏見ではないけれど、若い子ほどこういったハッタリに順応しやすく端折った展開の飲み込みが早いという気がする。だからこそ若者中心にここまでヒットしているのかもしれない。

RADWIMPSの楽曲もひとつひとつとれば素晴らしいのだが、シナリオの起承転結や"おはなし"できちんと盛り上げていかなくてはいけない部分を音楽に委ね過ぎており、まるで彼らの楽曲をもとにして映画全体が構築されていったような錯覚にも陥る。

劇中にある種のミスリードがあるのだが、そういった要素に説得力を持たせるためには、主人公が起こす出来事を"そうせざるを得ない(そういう選択肢しかない)"状態に縛らなければ、ネタばらしのあとのカタルシスは生まれないと思う。都合の悪い部分は主人公には気付かないという不自然な展開は、のちに真相がわかったとしてもまるであとだし伏線を見ているかのようにしか思えない。
おそらく描きたかったシーン、繋げたかったハッピーエンドというものの存在が大きかったのかもしれない(もしくはそうせざるを得ない状況だったのかもしれない)が、"結末のためにこれまでの全てがある"という作品こそ綿密なブラッシュアップが必要なのだと改めて気付いた。
今作は経緯すべてが偶然、運命、はたまた神の導き。それは良いのだが、リアルとファンタジー(スピリチュアル?)が中途半端に融合された世界では何が起きても先述したように結局「まぁ、そういうものだろう」で片付けることができるので、ご都合主義展開にはうってつけの素材のように思える。ご先祖の遺影を見ながら三葉が呟いた言葉には「なんじゃそりゃ」と愕然としてしまった。

ストーリーの脆弱さを美しい絵によるモンタージュと音楽の装飾でいろどり、なんとなく見れば素晴らしく良くできている"ふう"に見えてくる作品だった。
とはいえ、田舎の映画館にも関わらず満席で鑑賞できたのは久々。やっぱり客が多い劇場での鑑賞って気持ちが良いですね。
キャストの演技は良かったです。