くろみまりこ

何者のくろみまりこのレビュー・感想・評価

何者(2016年製作の映画)
3.8
今年いちばん監督の熱量を感じる作品。

想像と創造の映画。
そして人間賛歌だと感じた。
建前、虚栄、偽装、演技、そして本音、全てが人間の想像力を起因とする。それは時におそろしくもあり、愛おしくもある。自分が何者かををどのように"創り上げる"かは自分の想像力次第で、なんだかんだ言ってやっぱりそれができちゃう人間って超面白いし、生きていくこと=絶えず何かを想って何かを創ることって超超超面白いじゃん。という。
原作者と監督の"ものづくり"へのこだわりや思い入れが圧倒的なパワーで作品に昇華されたように感じた。こういう映画メチャクチャ好きです。

就活対策本部の5名が腹の内を探り合う中、ひたすらやりたいことを本気でやっていく劇団員のアクセントが気持ち良い。そしてなにより烏丸ギンジという人物の存在。彼の存在が作品の裏のテーマであり、物語の大黒柱のような立場にあるような気がした。彼がいなければ、ただ単に観客の琴線を刺激するような宙に浮いたツボ押し映画になっていたのではないだろうか。
絶えず作品を創造する彼の存在が、この"想像力の物語"の推進力であり支えなのだと思った。

芸術点お高めな傑作に仕上げるのでなく、かなり軽快なタッチでまとめられている快作。序盤の偽装カメラワークや若干説明的な画面づくりも、若者にターゲットを全振りしていることを考えると大成功している。この軽さと"わかりやすさ"の中で、何者か"わからない"6名の人物がしっかり場をつくっていく、このアンサンブルが本当に素晴らしかった。
これは監督の演出や脚本の力もあるが、おそらくプロデューサーのバランス調整が上手くいった結果であるようにも思う。監督/役者/音楽家の選び方と全体的な雰囲気の仕立て方が見事だった。

画面の美しさやらカメラワークやらの小手先の細かいことよりも、「何をやりたいか」「誰にみせたいか」をきちんと明確にした上で、「どうつくるか」というところに制作側の熱意がストレートぶつけられている。こういったビジョンが明確な作品は見ていて本当に気持ちが良い。
画面や音楽で魅せるような映画は他の作品がやってくれますしね。

終盤のある展開以降、ただのブサイク男にしか見えなくかった佐藤健はやっぱり面白い役者だと思う。
『上から2番目くらいの進学校にいてイケメンなはずなのにクソ地味で童貞な奴(たまに陰湿)』をやらせたら彼の右に出る者はいないだろう。

大絶賛!よりも、イイネ!が似合う軽快かつ痛快な作品でした。
パンフレットは読み応えがあって内容も面白いのでオススメです。