1971年、デビュー間もないダニー・コリンズはマイナーな音楽雑誌のインタビューの中で、成功する事への恐怖を口にする…それから43年後、ロックスターとして大成功したダニーは、最盛期は過ぎ、新曲は30年も作っていないものの、過去のヒット曲を歌う事でライブはソールドアウト、若い婚約者にでっかい家や高級車、自家用ジェットと贅沢三昧、でも心は、どこか満たされない…ライブ会場の最前列を陣取る老齢のファンの姿が自分と重なる…そんな時、43年前の雑誌の記事を見たジョン・レノンが書いたダニー宛の直筆の手紙が届く、「金持ちで、有名になることで、君の音楽は堕落しない。堕落させるのは君次第。君はどう考える?」…ジョン・レノンからの問い掛けに、ダニーは自分の人生を見つめ返す…
本作は、イギリスのフォークミュージシャンの身に起こった実際の出来事を元に、「ラブ・アゲイン」の脚本を書いたダン・フォーゲルマンが脚本・監督した作品で、彼の監督デビュー作です。
ダニーは、ジョン・レノンの言葉に目を開かさせられ、これまで、酒・ドラッグ・女に溺れ、無駄にすごしてきた自分の人生を変えることを決意し、一度も会った事がなかった息子に会いに行きます。
当然、いきなり現れた父に対し、息子のトムは戸惑い、拒絶しますが、トムの妻サマンサと孫娘ホープを味方につけ、徐々に頑なだったトムの心も開き掛けますが、トムにはある重大な秘密がありました…
ダニーは、人生を変え、家族を取り戻そうと不器用ながらも行動しますが、その方法は、結構強引で、金に物を言わせた"愛情のゴリ押し"なんですが、ダニー本来の性格の良さがあるのか、嫌味な感じはしません。
そもそも、ダニーは家族への愛情表現を知らなかったのかも知れません。
"愛情のゴリ押し"は、ダニーが出来る唯一の方法だったのかもしれませんね?
ダニーを演じたアル・パチーノは、流石の演技力で、"憎めないクズなロックスター"を見事に演じています。
特に、ジョン・レノンからの手紙を読むシーンの演技の深さには参りました。
それまで、腐った魚の目のような顔をしていたのに、手紙を読みながら、徐々にキラキラ輝いていく様には深く感動しました。
ダニーのマネージャーで親友でもあるフランクを演じたクリストファー・プラマーの演技にも隙がなく、自分をアルコール中毒から救ってくれた顛末を不機嫌そうな顔で語りながらも、それとなく、ダニーの素晴らしさを示唆するシーンに大人のカッコ良さを感じました。
また、ホテルの支配人役のアネット・ベニングとアル・パチーノとの漫才のような会話のやり取りには脚本の良さも有りますが、二人の演技故に光るシーンだと感じました。
アネット・ベニングは、「ライフ・イット・セルフ」にも出演していますので、ダン・フォーゲルマンとは相性が良いのでしょうか?
本作は、物語の内容からも、ジョン・レノンの曲が効果的に使われていまして、特に、最初にダニーが手紙を読むシーンで"イマジン"が流れてくるところは、平凡な表現ですが、グッと来ました。
アル・パチーノって、「ゴッドファーザー」や「スカーフェイス」の様な強面な感じで取っ付き難いイメージがありますが、今作のダニーの様にクセはありますが、無駄に力が入っていない"良い人"をやらせても、やはり凄いですね。
本作でのアル・パチーノは、「マイ・インターン」でのロバート・デ・ニーロのようでした…