ま2だ

ブラックパンサーのま2だのレビュー・感想・評価

ブラックパンサー(2018年製作の映画)
4.5
ブラックパンサー観賞。

単独シリーズ1作目という利を活かして、ヒーロー映画が陥りがちな肥大化を免れ、アフリカとアフリカンアメリカンの歴史を総括しつつ、極めて2018年的な視点を取り入れた見事な脚本、配役、美術、音楽。

仮に上掲の要素に興味が湧かなくとも、ダブルヒーローと言っていいレベルでヴィランを掘り下げ、その対立から映画の主題を炙り出す手腕においてマーヴェル最高傑作だと思う。

物語の舞台が釜山に移るまでアクション映画としては停滞気味だが、この序盤は、映画終了後すぐにもう一度観返したくなるような重要な設定描写に割かれている。

先進国に豊かな資源を奪われた歴史を持つアフリカ諸国がもしそれらを奪われていなかったら?というifが、ワカンダ国であり超金属ヴィブラニウム。

そして近年資源の保有権を欧米諸国から取り戻し、急速に先進国化を進めるアフリカが、その資源を誰のためにどう使うか?という問いかけが、冒頭から映画全体を貫いている。

主題が、王の死、王位継承、簒奪者というモチーフを借りて、あたかも鍛冶屋が剣を鍛え上げるように、幾度も幾度も問いただされる。剣を鍛える炎や水、槌がブラックパンサーという映画を構成する全ての要素なのだ。

ラスト、映画を通して研ぎ澄まされた刃を突きつけられたチャラが応じるシンプルなセリフに、本作が達成したものの重みを知る。ループを繰り返しキープしつつ、上物を変化させていく映画の構造そのものが、非常にヒップホップ的だと言えるだろう。

この極めて硬派な姿勢と、登場人物全てのしっかりとした描きわけ、独創的なアクション演出、成長譚が高次元で融合しているのだから恐れ入る。テーマを語る上で、同じシチュエーションを重ねる展開の退屈さを、エンタメとしてのレベルの高さが最小限に抑えている。

スーツの力を借りずとも最強な女戦士オコエがアクションを、ルックス、バックグラウンド共に、迷いを抱く主役を凌駕する魅力を持つヴィラン、キルモンガーがストーリーを牽引するが、その他の登場人物たちの配置も非常に的確。ワカンダのいち部族の若きリーダーを演じたダニエル・カルーヤのひんやりした瞳も、映画の奥行きに貢献していると思う。久しぶりに本人登場のアンディー・サーキスの外連味も素晴らしい。

テーマに沿って登場人物を動かすスタイル、スターウォーズ的ともいえるアフロフューチャーな美術もあいまってギリシャ古典劇の風格も漂う傑作だと思う。ケンドリック・ラマー手がけるスコアは、狙いは頭では理解できるのだけれど、劇中でのハマりっぷりは少し物足りなかった。こちらにより深い知識が必要なのかもしれない。
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