ま2だ

ハニーボーイのま2だのレビュー・感想・評価

ハニーボーイ(2019年製作の映画)
4.2
ハニーボーイ、鑑賞。シャイア・ラブーフがアルコール依存症治療中に書き上げた、子役だった自身とステージパパの父親との関係を描いた自伝的脚本の映画化。

ラブーフの幼少時代と青年時代をそれぞれ演じたノア・ジュプ、ルーカス・ヘッジス(作品選びが上手い)も良いが、やはり父親役を演じるラブーフが素晴らしい。いわゆる毒親だった父親を自身が演じることで彼を理解し、受け入れ、赦す過程が演技として、映画として、ここには刻まれている。

暴力的な父親の演技を通じて、ノア・ジュプが演じる子役時代の自身と対話し、恫喝する中で父親の記憶と格闘するようなラブーフの振る舞いは、その二重性をもって観る者の胸を締め付ける。劇中で彼が幼い自身を恫喝する時、彼は同時に怯え、泣いているのだ。

何度も登場するバイクでの移動シーンも印象的。この親子のタンデムスタイルはエンディングに至るまで何度も変奏されるのだが、恐怖と愛情の入り混じったアンコントローラブルな状況は、親子の関係性の表現として秀逸だ。背中に掴まる子はもちろんハンドルを握る父もまた、いつものルートから抜け出せない。

幼少期のシーンの随所に挿まれるノスタルジックな美しさが、青年期のラストに向けてマジカルに収斂していく様や、アレックス&ヨンシーが手がける温かい音像の劇伴など、映像作品としての強度もなかなかのもの。このあたりの采配は監督のアルマ・ハレルの持ち味なのだろう。アレックス・エバートの歌声が流れるシーンのエモーショナルさは今年随一かもしれない。

この作品において幼少期を演じるノア・ジュプに期待と賞賛が集まることは当然のこと(No.1子役の名に相応しい名演、そして本作のノスタルジックなムードを決定づけているキャスティングだ)だが、当時の父親の心情に寄り添うようにジュプから一歩退いた位置で佇むラブーフにやはりグッときてしまう。いい役者になったな。

虐待や貧困などの負の連鎖から、不器用に抜け出す一歩を踏み出した青年の物語。ハニーボーイというフレーズにかけられた呪いを解く、これはセラピーだ。

余談だがモーテルの隣人のちょっとエッチな年上のお姉さんを演じたFKAツイッグス、とても良かった。
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