ま2だ

オフィシャル・シークレットのま2だのレビュー・感想・評価

4.3

オフィシャル・シークレット、鑑賞。ドローンを用いた現代の戦争を描いた秀作アイ・イン・ザ・スカイのギャヴィン・フッド監督の最新作は、イギリスGCHQ所属の女性による、イラクに対する軍事制裁決議を巡るアメリカ政府の不正のリーク事件をベースにしている。国家権力とそれに抗う側、それぞれをあくまで個人、そしてその集合体として描くスタンスは今作でも一貫している。またしても秀作だ。

ヒーローでもヒロインでもなく、我々と同じようにある政治的な信条を持つ女性が義憤に駆られて、法律を侵して正義を為す。法と正義のコンフリクト。よくある設定ではあるが、彼女=キャサリン・ガンの脇の甘さや勇気と後悔の狭間で揺れ動く心情などが、もどかしいほどリアルだ。

リーク事件の前後を通して己の理想や信条に従って生きることの難しさが描かれる映画前半は、キャスティングから想像すると(キーラ・ナイトレイだ)意外なほど主人公の脆さに翻弄される。内容は全く異なるがアングスト/不安を観ている時の感覚に似ているかもしれない。言ってることは立派だが、なかなかそんなに上手くはいかないよね的な。

ただそのように偉人感の薄い主人公を据え、ままならない顛末を描いてみせることで映画は、市民が口だけではなく実際に行動に移すことの困難さ、勇敢さ、尊さを観るものに提示する。

「ごめんなさい」
「謝ることはないわ。悪いことはしていない」
「でも正しいこともしなかった」

という、主人公と同僚の会話が胸に迫る。

本作は法廷ものとしては極めてオーソドックスな構成を取るが、その時間配分は少々個性的でその幕切れはなかなかに鮮烈な印象を残す。この鮮烈さが、結末に漂うビターな無力感、真に我々が対峙しなければならないものを際立たせているのも上手い。

この手の作品としては世論や大衆の存在が薄いのも特徴のひとつ。国家や国民を大きく括り概念化することなく、あくまでもそのひとりひとりを描き、積み重ねていくアプローチが取られていて、海辺でのエンディングに至るまで、ギャヴィン・フッド監督の信念を感じる。

レイチェル・ワイズ主演、ホロコースト否定論者との法廷闘争を扱った「否定と肯定」と見比べてみるのも面白いかもしれない。
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