ま2だ

WAVES/ウェイブスのま2だのレビュー・感想・評価

WAVES/ウェイブス(2019年製作の映画)
4.0
WAVES、鑑賞。

兄と妹の2つのパートを重ね合わせる構成で「事件」への転落とそこからの再生を描く。全編通してのエモーショナルな色彩感覚とBGMの用い方は確かに印象に残るが、映画としてみるとそれらはあくまでも付加価値、(エンドロールでのアラバマ・シェイクスには胸打たれたが)誰の身にも起こりうる物語を現代のアメリカに重ねて丁寧に描いた佳作だと感じた。

主人公たちの父親の厳格なふるまいからは、アメリカでアフリカン・アメリカンの人々が成功するために用意された道の狭さを感じさせるし、そこから転落することの恐怖や危うさが描かれているのが前半の兄の物語、そして円環するカメラや同じような構図を重ねつつ、その危うさから抜け出し一歩踏み出すのが後半の妹の物語だと言えるだろう。前半の兄の物語は6月に公開されていた「ルース・エドガー」と併せて考えてみるのもよいかもしれない。

妹パートでの、「恋人の肉親の死」というワンクッション置かれた他者の悲劇に寄りそうことで、自らの深い悲しみを客観視し、そこから抜け出すことができるという構造は村上春樹「ノルウェイの森」などでも採用されてきたクラシカルなものだが、これら色彩やBGMの洪水をかき分けた奥にある実直で骨太な物語が本作の真の魅力だと感じた。遠心分離機にかけた「マンチェスター・バイ・ザ・シー」のようだ。

とはいえ、トレイ・エドワード・シュルツ監督がまず、劇中に流す楽曲のプレイリストを作成し、そこから脚本に取りかかったというエピソードもうなずける音楽のはまりっぷりはやはり特筆もの。ただしその工程ゆえか音楽とシーンの寄り添い方が緊密すぎ、説明過多と感じる箇所も少なくない。その点では全編に爆音で散りばめられた楽曲群よりも、トレント・レズナーとアッティカス・ロスの名コンビが手がけるスコアが画面に深い余韻を残す。
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