ま2だ

パブリック 図書館の奇跡のま2だのレビュー・感想・評価

パブリック 図書館の奇跡(2018年製作の映画)
4.0

パブリック 図書館の奇跡、鑑賞。

大寒波の夜、暖を求めてオハイオ州シンシナティの図書館に籠城したホームレスたちと職員たちの物語。コメディーと捉えるか、コメディータッチと捉えるかで評価が分かれそうな作品だが、冒頭から一貫するBGMのチョイスや伏線に固執しない物語の運び方から自分は後者、アメリカや日本で現在進行形で起こっていることを、図書館という舞台に置き直した社会派ドラマとして受け取った。軽やかで飄々とした仕上がりは制作・監督・主演を務めたエミリオ・エステヴェスの持ち味だろう。

劇中のセリフにもあるように、知性の最後の砦である図書館を舞台に社会の縮図を置換してみせたところが巧い。ここ日本であれば緊急事態宣言の際に似たような締め出しの構図が生まれたネットカフェを舞台にしても、表面上は近似のコメディーを作ることができそうだが本質は大きく異なる。

主人公である図書館職員の来歴や、彼が劇中で引用するスタインベック「怒りの葡萄」の一節が登場人物それぞれに投げかける意味の違い、ラッパーのライムフェストがいい味で演じるホームレスとメガネのエピソードなど、映画は環境と知性、教養の関係について一貫して言及を続ける。

教養を得る機会は誰にでも開かれるべきであり、教養を手に入れることに遅すぎるということはない。この解釈のもとであのスタンダードな名曲の持つ意味合いを変えてしまうようなラストは、本作のコメディーとしての凡庸さを超えて素晴らしい達成だと感じた。

観賞後に、自分なら映画のどこに存在しただろうか、どの人物の立場だろうかと思い馳せることができる作品だと思う。それがたとえアホのニュースキャスターだったとしても、そこから始められればいいのだ。
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