ま2だ

透明人間のま2だのレビュー・感想・評価

透明人間(2019年製作の映画)
4.3
透明人間、鑑賞。

リー・ワネル監督による古典ホラーの現代版リブート。透明人間というホラーアイコン表現のアップデートにとどまらず、現代社会の抱える問題点をホラーというジャンルに重ねることでタイトルのもうひとつの意味を浮かび上がらせている。恐ろしいものの定義が劇中で二転三転する望外にテクニカルな脚本、素晴らしい。

死んだはずの元カレが透明人間になって自分の新生活を脅かす…というのが本作の基本プロット、これに沿って表現をアップデートしていけば十分現代ホラーとして成立しているのだが、本作が面白いのはここに付与された登場人物たちの設定。

DVやPTSDに悩む主人公を「いかにも」なエリザベス・モスが好演、追い詰められていく過程を相手が透明人間ゆえ、ほぼ狂気の一人芝居で魅せてくれる。「Us」でもっと彼女の演技をスクリーンで観たいと思った自分のような観客の期待に120%応えてくれるだろう。

自分に降りかかった見えざる脅威についての理解を周囲から得られない、という設定は2004年のカルトスリラー「フォーガットン」(大好き)におけるジュリアン・ムーアとも重なる。確かにモスは次世代のムーアと言えるかもしれない。

映画はある時点でタイトルの「透明人間」の二重性を浮かび上がらせる。主人公を真の意味で脅かしているのは、最新テクノロジーと融合したステルスサイコパスではなく、DVや性被害が被害者にもたらすPTSDであり、もういない人間の影に怯えてその影響下・支配下からいつまでも抜け出せない状態であるのだということ。その見えない邪悪な影響を「透明人間」になぞらえているのだ。

そう考えると被害者がDVの影響を断ち切るためには何が必要か?というビターな真実とB級ホラー的お約束エンディングを縫い合わせてみせたラストも鮮やか。やはりワネル監督はホラーとの相性がよく、前作「アップグレード」(病院内でのバトルシーンにセルフパロディ的なカメラワークが登場する)よりもテーマへの踏み込み方が力強い。

個人的には、こういう周囲の理解が得られないタイプの被害者に、我々は、社会はどう寄り添い、救いの手を差し伸べることができるか?という問いかけも感じ、その意味でも現代的なテーマをはらんだ優れたホラーだと思う。エリザベス・モスがまたそのへん上手いんだ。モス無双。
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