海

怒りの海のレビュー・感想・評価

怒り(2016年製作の映画)
4.3
相変わらず週1,2回は映画館に足を運んでいるのだけど、なかなか記事に起こすまでの気力が…

今回見てきた怒りは逆にアウトプットしないと消化しきれないので久しぶりに勢いのままに

いやー、気持ち悪いね。全編通してのっぺりとした気持ち悪さが観客を覆いこむ。重い。邦画サスペンス独特っていうか、真夏にどれだけ拭ってもベッタリと汗で張り付くシャツのような気持ち悪さというか。

まずキャストがめちゃくちゃ豪華で、特に妻夫木と綾野の絡みで公開前から話題になってましたね。
正直ノンケなので全く惹かれないどころか引き気味ですらあったんですけど…

蓋を開けたら彼等が一番純愛だったなって感じ。
猟奇スリラーみたいな作品が基本的に大好きなので犯人探しや猟奇シーンを期待していくと肩透かしを食らうかもしれない。
でも米軍基地問題や日本人女性と米兵のトラブルなど、連日報道になってる部分もクローズアップされていて…っていうか間違いなく物語の核の1つ。タイムリー。

広瀬すずはモデル、タレントといった程度の認識だったんだけど、妻夫木綾野、宮崎あおい渡辺謙松山ケンイチ池脇千鶴、森山未來の豪華出演陣に埋もれる事なくストーリーの重要な配置をきちんとこなしていて女優だなぁと強く感じざるをえなかった。

作中で明かされる事なく結局何故山神は夫婦を殺害したのかもわからない。
一応、「他者を見下してギリギリのところで自分を保っていた山神が憐れまれたと勘違いしてキレた」「俺、目を見るとわかるんだよね。最初からコロッと扱える奴かどうか」などとサイコパスを匂わせる部分はあるのだけど。

作品のテーマというか煽りには「愛する人が凶悪指名手配犯だったとしても、あなたはその人を愛せますか?」みたいなのがあって、テーマに沿わせるなら動機や事件の掘り下げはきっとそこまで必要ないんだと思う。

タイトルにもある「怒り」とはきっと日常に溢れるやるせないこと、自分ではどうしようもないこと、「どうして自分がこんな目に」「何故幸せになれない」といったような社会への憤りがそのまま怒り(=山神)として表現されているのだと思う。

最後の書置きを見て海に言葉にならない怒号を振り撒く広瀬すずで物語は終幕になるわけだけど…


そうだね。「あなたはそれでも愛する人を信じられるか?」というテーマでありながら、お互いを信じる努力を誰もしていない部分はある。もっと「あなたのことを信じたいけど今自分にはこういう疑念がある。本当はどうなの?」って話すことが出来たら良かった。
宮崎あおい演じる愛子ももっと松ケン田代に踏み込んで洗いざらい話したら良かったんだ。
妻夫木も綾野に「本当はお前何を抱えてるんだ?」って話したら良かった。
沖縄の少年もそこまで話すならぼかしたりせずに森山未來にもっと悲鳴を伝えたら良かった。
其々みんな、話そうとはするしさわりまでは話すのに本当にあと一歩踏み込めれば…
でもそれをしちゃうと崩れてしまいそうな関係性でもあるし、今ある絆が壊れてしまうのも怖いっていうのも仕方ないか


勝手に相手に自分の思う理想や、信じたい部分を押し付けて、違った時に「裏切られた」と思ってしまう事は誰にでもあると思う。

「処女だと思ってたのに非処女なんて!」「浮気なんてしない人だと思ってたのに他に女を作るなんて!!」「裏切られた!」

自分で相手に「こうだったらいいのにな」「こういう人なんだろうな」と擦り寄っていって、相手のことを知る努力を怠ったまま「裏切られた」と急に掌を返すその姿もきっと危険なものなのかもしれない、だなんて思ったりもしました。多分テーマとはズレてる。

正直すごい疲れるしあれこれ考えて、こうして洗いざらい書き起こしてもまだ消化不良な部分はあるのだけど、こうやって余韻をたくさん残してくれる作品が大好きなんです。
3つのストーリーが並行して進んでいくことで155分という尺を感じさせない演出にも脱帽。

ノンケにはベッドシーンがきついかもしれないけれど是非頑張って見に行ってください。飲みながら感想会でもしましょう。
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