海

シェイプ・オブ・ウォーターの海のネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

水に形はないけれどそこに確かにあるもの
愛に形はないけど二人の間にはきっと確かな愛があったのだろう

昔からずっとクリーチャーという異形を描き続けてきたギレルモ監督が、6歳の頃から作ろうと決めていた作品が50年近くの年月を経て、今までのキャリアの集大成とも言える形に完成された今作品。
王道中の王道、童話の典型とも言えるようなこのストーリーを映像化できたのは、ギレルモ監督だからこそだと思える作品に仕上がっている。

声(声帯)を失った今作のヒロインは決して美人ではなく職業も清掃業。
王子役の彼は遠くアマゾンから連れて来られた、現地では神と崇められる異形。

制作過程で「美男と美女にすれば予算を出す」だの「最後にカエルが王子様になるように、クリーチャーを美形にするなら予算を出す」だのクソみたいな話がたくさんあったらしいんだけど、それらを振り切って低予算の中で本当に自分の描きたかったモノを作り上げたギレルモ監督に賞賛を送りたい。

声を失ったヒロインと言えばもちろん人魚姫。
イライザは幼い頃に川の近くに捨てられていた。謎の首の傷跡。
なら、やはり記憶になくてもその時に王子様と出会い声帯を失っていたのだと思う。
だからこそ研究所で鎖につながれていた彼に、運命を感じたのではないだろうか。

ちょうどドリームも見ていたので、今回航空宇宙研究センターでゼルダが出てきたときは嬉しかったなぁ。

ストリックランドのエリート意識から来る苛烈なパワハラも、キャリアに執着するプライドも、二人の愛の前には無力だったようだ。二人を引き裂くことは出来なかった。

彼のキャラクターも本当に痛烈で、トランプ政権の批判になりかねない、物議を醸し出すキャラクターとのことだったんだけれど、
「男はこうあるべき」と他人だけでなく鏡に向かって自分にも言い聞かせるストイックさ。
神経質なまでのその人となりはある種の洗脳じみた思想でもあり、序盤で食い千切られた指が終盤に向かうにつれ壊死していく中、自分のプライドや思想すらも腐り落ちていくようで狂気に身を溺れさせる…
まるでレオンでゲイリーオールドマンが扮するスタンスフィールドのような、恐ろしさと冷徹さを兼ね備えながらどこか危なっかしさを感じる強烈なキャラクターだった。


最後に"彼"が帰る伴侶に、イライザが選ばれ本当のマーメイドになった時にその愛は確かなものになった。


もう悉く王道で、人魚姫も美女と野獣もシザーハンズも織り込んでいるにも関わらずギレルモ監督がずっと描き続けてきた「内面の美しさ」っていうのが詰め込まれた今回のシェイプオブウォーターがアカデミー賞を受賞できて、監督のメッセージが伝わったり、認められたりしたことは本当に良かった。

60年代の冷戦下で描かれる生活、異形との行方はパンズラビリンスを彷彿とさせるし、ハッピーエンドには見えないけれどきっと本人達にとっては1つの幸せの形なんだろうと思わせるのは永遠のこどもたちを彷彿とさせる。

劇的な派手な面白さというのではなくて、美しさにただただうちのめされた作品だった。

「普通」とは何か。声が出せることなのか、ゲイではなくストレートであることなのか、黒人でなく白人であることなのか、あるいは、半魚人ではないことなのか。
「普通であること」に存在を奪われた者たちは、「愛」を感じてはいけないのだろうか。
人魚姫も美女と野獣もシンデレラもみにくいアヒルの子も、みんな美しい処女やイケメンなんかの優れた外見でなければハッピーエンドは訪れないのか?

画面的にも全体的に暗く緑がかったトーンが続くのも、緑のゼリーやパイが出てくるのも「未来」の象徴なんだとか。

イライザの日常(朝の風呂、ゆで卵、靴磨き)のシーンが何度も繰り返される内に徐々にスピードアップしていくあの編集はエドガーライト監督によるものと聞いて納得。エンドロールで是非Thanks欄に彼の名前を探して見て欲しい。
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