海

ミッドナイトスワンの海のネタバレレビュー・内容・結末

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

白鳥の湖も赤い靴も基本的にハッピーエンドじゃないやね。

普段邦画全然観ないんだけど今年イチのヘヴィーなインパクトを受けた。
LGBT問題を提起した作品…でもあるんだろうけど、それだけで終わらせるには勿体ないというか、理解したつもりになって「大変ですねーわかりますよ!自分も勉強してるんでね!」とか絶対言えねーよなって。

わかんねーもん。ストレートの友人だったとしても悩みとかに「わかるよ」とか簡単には言えないわけで。
でもそれがLGBTだとか障がいとかになると簡単にわかった気になれちゃう人が余りにも多いし、淫夢ネタを誰が見てるかわからん不特定多数の居る場でバンバン連発すんのもどうかなってモヤモヤもするわ。

ネグレクト寸前の母親にたくさん我慢しながらも「でもお母さんだから」って想いで耐えてきたらいきなり投げ出されるのが「私子供嫌いだから」って言い放つ凪沙のところで一果がすごく不憫だし。
「誰も頼んでない」ってそりゃそうだよ。
好きなことをやる為に月謝を払う為に中学生が出来るアルバイトなんて無いもんな。
問題が起きて「バレエ教室なんて金持ちの道楽、無理でしょ」って先生と凪沙が話してるとこから「もういい」って逃げるように飛び出した先で「私たちは強くならないとダメなの」って抱きしめられて初めて泣いた一果に泣いた。

好き勝手いう同級生に椅子を投げ、個撮で性癖丸出しにしてくる親父に椅子を投げて、でも東京に来て一番辛かったのは自分のために就職した凪沙の姿を見た時だったんだろうなって思って泣いた。

「どうして私だけ」って慟哭するように嗚咽を漏らす凪沙がただ普通に暮らせるようになるには、ただ普通に母親になるには、ただ普通に愛して愛されるようになるには、「普通」って一番身近で当たり前で、でもだから一番厄介だな。

身体的に、戸籍上「女」になってあれほど拒否してた実家に帰って案の定ボロクソに言われて、母親が「お願いだから病院に行って治して」っつって「私は病気じゃないから治らないの」って言う方も言われる方もどっちも辛いんだろうな。
こうなるのわかってても一果を迎えに行った時点でもう十分、親じゃねーか。

一果の母親になる為に思い切って踏み切って、それでもまだ恋焦がれる「普通」にはなれずに自暴自棄になっている終盤はとにかく観てて辛い。
でもあんなにコミュニケーションが取れなかった一果が喋るようになって、撮影にトラウマを抱いたであろう出来事を乗り越えて卒業式で写真をせがまれるようになって、東京まで1人で会いに来るようになって、凪沙のトレンチコートを羽織って世界に進出して、八王子で最後まで踊れなかったバレエを踊り切るようになったのは凪沙が居たからじゃないか。

ハッピーエンドではないだろうし、救いもないけれど一果は凪沙に救われたじゃないか。
そう思いたい。
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