ぎー

はじまりへの旅のぎーのレビュー・感想・評価

はじまりへの旅(2016年製作の映画)
4.0
【第89回アカデミー賞特集1作品目】
"普通ってなんですか?"
多様性をテーマにした映画が溢れる中、本作も多様性をテーマにした映画であるが、終始ジョークに溢れているので説教くさくなく、笑いながら見れる。
が、それでも本作の主人公の父親ベンの教育方針はぶっ飛んでいる。
この映画を見ずに文字情報だけで聞いたら、全然賛同できなかっただろう。
だからこそ映画を見て本当に良かったし、価値観は多様だなって思った。
本作で多様性が描かれているのは子供の教育。
この映画を見て思ったのは、教育方針は多様であっても、それらが全て子供のことを想っているのであれば良いということ。
教育方針はそれぞれ正しい。
主人公ベンの方針も正しいし、対立していた妹夫婦の方針も、妻のお父さんの方針も正しいのだ。
そして僕らは後者の方針で生きてきたし、身の回りに前者で生きてきた人は、全くいない。
だから繰り返しになるが前者の考えを全く理解できなかったが、少しは理解できたと思う。
(スーパーで万引きさせるのは違うと思う。あれは犯罪だ。)

でもベンの教育方針を見ていると、確かに僕らは現代の社会の中で生きていて、腐敗していたり洗練されてない物事に多くの時間を費やしている。
主人公の子供たちは一切そんなことがなく、全力で知識と肉体の成長に励んでいる。
だから、少なくとも同年代の子供達と比較すると遥かに知識があるし、遥かに身体能力が高い。
ただ気をつけなきゃいけないのはこの映画はそこだけを描いている、ということ。
子供達には残念ながら社会性がないのだ。
これは夕食を共にした妹夫婦の子供たちとの会話や、キャンプ場で一緒になった女の子との恋愛で明らかだ。
で、その欠落した社会性の状態で大人になった時きちんと生きていけるのかどうか、この映画は描いていない。
僕は教育学の専門家ではないので分からないが、本当はそこまで踏まえてこういった教育方針が許されるものなのかどうか、考えるべきなんだろうな。

映画のあらすじとしては以上だが、映画としてはとにかく映像と音楽が美し過ぎる。
そして、細かいところも含めてブラックジョークの完成度が高かった。
警官を讃美歌の熱唱で追い払ったり、雨の日でも子供達に崖登らせたり、母の葬儀を妨害したり、遺体を掘り出したり。
繰り返しになるが、硬くなりがちなテーマをマイルドに面白おかしく映画にしてくれた傑作だと思う。
ぎー

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