小松屋たから

クリード チャンプを継ぐ男の小松屋たからのレビュー・感想・評価

3.8
「ロッキー」は世界中のほとんどの人が第6作で十分と思っていたし、スタローンもそのつもりだったろうが、若い監督、製作者たちが脚本を持ち込みその気持ちを動かしたのだとか。

第1、2作ではロッキーの最強のライバル、第3作では盟友となりロッキーを叱咤激励、第4作ではピエロのように(ちょっと気の毒な扱いだった)リング上で壮絶に散ったアポロ・クリード。映画史に残るキャラクターだったから、その息子の登場という思いつきは世界マーケット展開を考えると中々見事だなと思う。

でも、ロッキーがアドニスのトレーナーを受ける動機がちょっと弱く、ストーリーも無難なものに終始しているように感じた。最初の「ロッキー」の時のようにこれでしか生きられない男の全身むき出しの這い上がりモノではなく裕福な若者の「自分探し」だから感情移入しにくいのかもしれない。

しかしながらスタローンは、鶏を追いかけ町中を走るトレーニング、フィラデルフィアの階段など、映画史における「世界遺産」というべき要素を惜しみなく提供している。

肖像権などの権利的な処理はどう交渉したのかはおいておいて、この映画はロッキーというよりもスタローンがその映画屋魂を後世に譲り若い映画人を育ててあげようという気持ちの表れだと好意的に解釈したい。

「ロッキー」シリーズは、1,2のアート指向からすると、3,4は急速にメジャーアクションエンターテインメント化した。アポロはその犠牲者だったとも言える。

だからこそ、来年公開の次回作はどちらに舵を切っているのか、大いに注目してみたい。