小松屋たから

クルエラの小松屋たからのレビュー・感想・評価

クルエラ(2021年製作の映画)
4.3
コロナ禍になって、去年は、映画館に行く回数が極端に減った。すると、必然的にスマホやPC,テレビで配信経由の映画を観る機会が増えたわけですが、なぜか、それと並行してFilmarksに文章を書く意欲が失せていました。

自分が感想文を書きたいという衝動、映画館での鑑賞という行為はどこかで離れがたく結びついていたんだということに気づかされて約1年半。その後、映画館に行く頻度は徐々に回復してきたけれど、気づけば、今更、素人の駄文掲載を再開しても…というぐらい長い空白期間ができていました。

そこへ、この「クルエラ」。色々、考えさせられました。

なんと言っても、映画館と配信のディズニープラス、ほぼ同発。映画館を守りたいという意地からTOHOシネマズなど複数の大手シネコンが公開を拒否したという、まさに、今の、そして、今後の映画、映像産業の構造変化の行く先を占うような作品。そこで、他のシネコンではなく、ディズニー映画は普通、上映させてもらえないだろう、もしくは、上映する気もないであろうミニシアターで、この大作を観るという稀な体験をするべく、空席の出る終映近くまで待ちました。

ちなみに映画は、他の多くの方々も書いてらっしゃるかと思いますが、まごうことなき傑作です。クルエラというディズニーファンタジーのヴィランを1970年代のパンクロックの隆盛、ファッションの光芒の狭間に鮮烈に誕生させたそのアイディア、導入近くのデパートの入り口からトイレまでの長いワンカットに象徴される抜群のカメラワーク。自分が大好きな映画「アイ・トーニャ」のクレイグ・ギレスビーが監督で、これも同じく大好物の「女王陛下のお気に入り」のエマ・ストーン主演ときたら、面白くないわけがないと思って多大な期待を持って映画館に行ったわけですが、それをはるかに上回る快作でした。

ヴィランへの堕ち方に詰めが甘いところがあって、クルエラが全然悪人には見えないという欠点はありますが、そこはディズニー映画ならではの歯止めでしょう。アートの香りをふんだんにまぶせながら、作家性に偏りすぎず大衆エンタメであることを忘れず。子供たちにも届くであろう適度な過激さとダークネス。ディズニーがこの領域にまで足を入れてくるとなると、他のメジャー映画の製作者たちはどうすればいいのか…

で、この作品が、配信と同発。これからもこのクラスの作品が次々と同じ形式で発表されていくとなると、映画館は、益々、観客の高齢化が進み、一部の好事家だけが集う場となっていくのかも。そして、Netflixには「ミッキーマウス」はおらず、ランド、シーといったリアルな体験の場もないことを考えれば、乱立気味の配信会社もやがて淘汰されていきディズニープラスの躍進をしばらくは誰も止めることが出来なくなりそうです。

ちょっとした外出にも気を遣うこの一年半。まだトンネルの出口が見えないまま、「クルエラ」レベルの新作を最初に家で観るという経験をしてしまった観客たちは果たして映画館に戻って来るのか。今、映像、映画文化は大きな時代の転換点に立たされているようです。

ただ、やっぱり、「クルエラ」は、シネコンの大きなスクリーンでIMAXなどで観たかった。自分はまだそう思えたから、映画館ごとの個性や魅力を信じ続け、また、Filmarksも再開しよう。ふと、そう思ったのです。