小松屋たから

シュシュシュの娘の小松屋たからのレビュー・感想・評価

シュシュシュの娘(2021年製作の映画)
3.5
入江悠監督がコロナ禍に立ち上げた「自主映画」。仕事を失ったスタッフ、俳優と、商業映画では製作できない題材の映画を作る、未来を担う若い学生達と作り方を模索する、苦境にある全国各地のミニシアターで公開する、というような原則のもと、監督みずから出資しつつクラウドファンディングを行い製作された作品。

まずは気持ちを言葉だけでなく、形にした心意気が素晴らしい。また、入江監督作品をかなり初期から観てきているので、こういった企画を実現できるポジションまで上がってきたその力は本物なのだろうと思う。

内容は、主人公が何者か、そのファンタジーを許容できるかどうかで評価が別れそう。自分としてはそこにリアリティを求めるのはヤボなことで、極論、このストーリーすべてが、実は、人間関係や仕事、様々なことで傷つきながらも自分が生きていることの理由を見つけようとした一人の女性の妄想と考えてもよく、その行動は、市井の人々の心の奥底に潜む願望をトリッキーに形にしたものなのだろうと捉えれば、ストーリー上の数々の疑問点、突っ込みどころは、まずまず消化できるかな、と思った。

すごく面白いかと訊かれると難しい。でも、観た方が良いかどうかなら、ミニシアターのためにもぜひ、と答えることはできる。

そして、「閉塞感」を描くのは本当に上手な監督なので、荒唐無稽な設定ながらもどこか地に足がついており、地方に限らず全国に蔓延するどんよりした空気や、もやもやを、さらっとシュシュっと払ってしまえ、そんな映画人たちの意地を見せてもらったように思う。