小松屋たから

竜とそばかすの姫の小松屋たからのレビュー・感想・評価

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
3.5
冒頭の祝祭感は素晴らしくて、多くの人が期待していた東京オリンピックの開会式とはこのようなものだったのかもしれないと思わされた。ただ、物語はかなり荒く、評価の高いJ-POP調の歌も含め、全体的に美麗ではあったが、正直あまり新しさは感じなかった。

少女の心の喪失からの回復とそれを見守る周囲の人々の優しさ、という物語は色々な形で何度も繰り返し見てきたし、ディズニー作品のオマージュというか再現部分は、無理やりストーリーにはめ込んだ感じがして、その後に判明する竜の正体を考えれば、理屈も必要性も少々破綻気味。

バーチャルリアリティ&オンラインの仮想空間が現実世界を救う。この方向の作品がどんどん増えてきているけれど、それはやはり、誰もが逃避したい世の中になってきているのか、いや、今までそのような場が無かっただけであって、人間は遥か昔から「もし別の人生だったら」と想像してしまう性質があって、それが形にできるようになっただけなのか。どちらにしても、生きることは難しい。細田監督作品は、その点を柔らかく突いているいるところが多くの観客の心に刺さるのだろうか。

ただ、本作はそもそもアニメーションのキャラクターという疑似人格に、さらにそのアバターというか疑似人格を与えるという、もちろんそれぞれで画のテイストは変えているのだろうが、アニメーションや細田作品のリテラシーに乏しい自分としては、ちょっと感情移入しにくい二重構造になっていて、それが、素直に楽しめなかった理由だと思う。「サマーウォーズ」の時はそこまで感じなかった違和感が残るのは、より別世界が精密に描かれるようになったからだろうか。

極論、現実部分が実写だったら作品のメッセージはもっと明確に受け止められただろう。でもそれでは、期待される「細田監督作品」では無くなるかもしれず… 

自分にはちょっと合わなかったけれども、ヒットしている。ということは、多くの人の心を動かしているわけで、自分の映画への見方を考えさせられる作品でした。