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GAMERA1999のbackpackerのレビュー・感想・評価

GAMERA1999(1999年製作の映画)
4.0
◾︎ガメラシリーズ番外編

【作品情報】
発売    :1999年
作品時間  :139分
撮影    :家庭用ビデオカメラ
総監督   :庵野秀明
監督    :摩砂雪
製作協力  :岩井俊二、松尾スズキ、カンパニー松尾、平野勝之
出演    :南里幸、樋口真嗣、金子修介、神谷誠、伊藤和典、林由美香、大橋明、福沢博文、原口智生、土川勉、佐藤直樹、中山忍、前田愛、藤谷文子、手塚とおる、ほか

【作品概要】
庵野秀明と摩砂雪の『新世紀エヴァンゲリオン』コンビによる、『ガメラ3邪神〈イリス〉覚醒』のメイキングドキュメンタリー映画。

本編監督の金子修介と、特撮監督の樋口真嗣の対立(コミュニケーション不足)、金子とプロデューサーの南里幸のわだかまり(脚本と方針の違い)、樋口に対する特撮助監督の神谷誠を代表とする特撮班からの突き上げ(金子への意見を樋口がぶつけない事への不満)、本編(ドラマ)版と特撮班の確執……、といった、製作チーム全体の不和を露悪的に映し出す。

なお、本作は、冒頭の断り文(後記)にて示すとおり、「諸般の事情により22%程捏造」がされている。
その上で、意図的に歪曲された情報のみ示す(例:金子監督の意見・視点が明らかに少ない)といったことからもわかるとおり、鵜呑みにできない"虚構と現実"をあえて描き、〈作品の興行を盛り上げる為のメイキング映像〉ではありえない〈この作品には多大な問題がある〉というアピールが、かえって興味関心を引く効果をもたらすことを狙った、稀有な存在である。

また、本作の他にも『ガメラ巨大生物審議会』という頒布作品も製作され、チケット等との抱き合わせ販売が行われている。


【作品感想】
この作品
及び商品
及び宣材は、
事実を元に構成されていますが、
諸般の事情により、22%程
捏造しております。
         御了承下さい。

という断り文から始まる本作は、
・細かなカット割り
・明朝系フォントの説明文の挿入
・入り組む時系列操作
等々、『新世紀エヴァンゲリオン』にてその特色を前面に発揮した庵野秀明が総監督を務めただけのことはある、庵野・摩砂雪節が全開のメイキングビデオです。
メイキングビデオであるものの、上記にも記載したように、情報・印象操作が行われている前提の、非常に偏頗された内容であることを念頭に置いてご覧いただきたい"作品"です。
("作品"ということも、どうかお忘れなく。)

ドラマ班と特撮班の2班体制による撮影からくる人間関係の問題を赤裸々に見せる本作は、当時特撮助監督だった神谷が語る〈特撮の神様円谷英二の功罪〉、神谷の言を借りれば「ドラマ班の監督(本編監督)と特撮班の監督を分業したことにより、両者の軋轢が現代まで続くこととなった」という、日本特撮映画の原罪として根深く存在する問題(らしいですが、私は特撮に詳しいわけではないため、詳細存じ上げません)を世に提起せんとした、画期的な作品と見ることもできます。

なお、神谷の口からは、「その点、ウルトラマンティガの試みは(垣根を越え、確執を無くすために)いい」という旨の発言が続くのですが、彼が今日では『ウルトラマンタイガ』等で特技監督のみならず本編監督含め作品製作を行なっていることを考えると、人間の成長や歩みを感じ、なんとも感慨深いものがあります。

話は逸れますが、『新世紀エヴァンゲリオン』でも脚本・絵コンテ等で参加している樋口真嗣が、ホワイトボードに次々と脳内ビジュアルを起こしていく姿なんて、「すげえ」と感嘆すること間違いなしです。


特筆しておきたいのは、庵野秀明という男にとっての"虚構と現実"についてです。
"虚構と現実"と"庵野秀明"と聞けば、誰しもが連想するのが、2016年のメガヒット大作『シン・ゴジラ』(『現実(ニッポン)対虚構(ゴジラ)』の惹句が有名ですね。)。
実はこの言葉は、本作のラストにて、デカデカと映し出されています。
参考まで、切れ目も原文ママで記載しておきますが、以下のとおりです。

だが、
虚構と現実、そして

は、続く。

早々と、1999年のガメラの時点で、庵野の思考と嗜好は、既に映像として顕現していたんですね。
そのうえで、"夢"という言葉が、改行のうえ特記されている点が、大変に意味深です。
虚構と現実は続く、だが夢も続く。
クリエイターの挑戦と苦悩や、憧憬と限界等、多くの真意が内包されている言葉、それが夢、ということでしょうか。

自身も長き闘病生活を送り、他の誰にもわからない世界を生きる男・庵野秀明の一端が垣間見える、そんな言葉であり、作品でありました。

VHSスルーのみ、配信等一切なし(2021年現在)という作品のうえ、VHSはプレ値となっておりますので、鑑賞ハードルは高めではあります。
それでも、特撮ファン、庵野ファン、どちらの方にもオススメする、一見の価値ある作品ですので、是非ご鑑賞いただければ幸いです。
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