ベイビー

ボーダーラインのベイビーのレビュー・感想・評価

ボーダーライン(2015年製作の映画)
3.8
原題:Sicario(シカリオ:暗殺者)
邦題:ボーダーライン

邦題の「ボーダーライン」というタイトルも、日本の配給会社が付けたとしては、珍しく悪くはないと思います。例えばチームがメキシコで最も治安の悪いフアレスに赴くとき、デル・トロ演じるアレハンドロが「Welcome to Juarez」という言葉を口にします。

その言葉を境に、僕たちが知る常識的な世界から、常識では計り知れないおぞましい麻薬組織の巣窟へ入ることになります。その世界の入り口は"ボーダーライン"と呼ぶにふさわしいでしょう。そしてそのボーダーラインを超えたことで、エミリー・ブラント演じるケイトの人生は後戻りできなくなるのです。

他にも見られる、国境、地域格差、生と死、善と悪、そして人が人でいられるためのボーダーライン…

この作品はヘリからの上空撮影が多く見られるのですが、その上空からの映像を読み解くと光と闇の対比がよく分かります。

その一つに屋根を使っての表現。上空からの撮影なので、街を映せば家の屋根が映し出されるのは当然なのですが、その屋根の並びにも表情があり意味があります。

アメリカのメキシコ国境付近にあるアリゾナ州の街並みは、戸建て住宅が道路に沿うように規則正しく建ち並びます。一方メキシコのスラム街であるフアレスは、小さな家々が空き地に雑草が茂るように、隙間を作らず無秩序でひしめき合っています。

上空からその違いを見比べることで明暗のコントラストが見えてきます。整然と建ち並ぶ家々は先進国としての整えられた秩序。フアレスの乱雑に建ち並ぶスラム化した地域は闇の深い無秩序。秩序あるところに安らぎが生まれ、秩序無きところに犯罪が生まれます。

無秩序は他の秩序を受け入れず、自分勝手なルールを作り出します。そんな奴らに平和的交渉なんて望めません。ですからそんな奴らを駆逐するため、国の安寧を守るために、たとえそれが秩序という一線を越えることだとしても、シカリオ(暗殺者)という汚れ役を作る必要があるのです。

これは善と悪との闘いじゃないんです。秩序と無秩序との闘いなのです。

ですから、このシリーズの原題は「Sicario(シカリオ)」。暗殺者というタイトルが付けられているのです。それを知らないと、この作品の本質や「ソルジャーズ・デイ」の最後のシーンで言われたあのセリフも、全て間違った解釈で見過ごしてしまうのだと、今回見直したおかげで改めて気づかされました。

今作はドゥニ・ヴィルヌーヴ監督らしく細やかな演出が冴え渡り、不穏なリズムで鳴る音楽と共に細部まで緊張感を与えてくれる作品に仕上がっています。

音楽の担当はヨハン・ヨハンソン氏。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品では「プリズナーズ」「メッセージ」などでも音楽を担当されてたとのこと。残念ながら昨年他界されたそうです。

ちなみに2018年に公開された今作の続編「ソルジャーズ・デイ」の音楽を担当されたのは、ヨハンソンのお弟子さんにあたり、今作や「メッセージ」などにも共同参加されているヒドゥル・グドナドッティルという女流チェリストの方。最近では「ジョーカー」やドラマ「チェルノブイリ」という超話題作品を立て続けに音楽担当をされているそうです。

映像と寄り添うように奏でる不穏な旋律。時には音楽がリードをして作品に抑揚を付け盛り上げてくれます。

そんな音楽を提供していただいたヨハンソンの死は大変悔やまれますが、ヨハンソンのDNAを引き継ぐ、ヒドゥル・グドナドッティルというまだ37才の若い才能に今後も期待です。

"ヒドゥル・グドナドッティル"

うーむ、言いづらい、そして覚えづらい…

期待と言えば、この"ボーダーライン"シリーズは3部作とのこと。しかも、その3作目のメガホンを取るのがドゥニ・ヴィルヌーヴ監督で、エミリー・ブラントも復帰するとの噂があったりなかったり…

そんな願ったり叶ったりな情報も嬉しいのですが、またベルチオ・デル・トロやジョシュ・ブローリンのタッグが見れるかと思うとワクワクしてしまいます。
ベイビー

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