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最高の花婿/ヴェルヌイユ家の結婚狂騒曲の東京キネマのレビュー・感想・評価

4.0
最近珍しく腹を抱えて笑いました。面白かったです。原題の『qu'est-ce qu'on a fait au bon dieu』は、直訳すると『神様、なんで私たちだけがこんな目に・・・』。フランスのブルジョアが良く使う言葉らしく、意訳すると『なんてこった!』程度の意味らしいです。つまり多文化共生万歳ではなく、こうなっちゃんだから仕様がねえよなあ、という諦観のお話です。

お話はさもありなんですが、会話がシャープで諧謔精神旺盛。言葉のキャッチボールで関係性が見えてきて緊張感があるんですよ。これが最大の見所ですね。大げんかして、ほぼ絶縁状態の三女までの婿同士が、四女の結婚話で久しぶりにクリスマスで再会しようという話になった時、“ジャッキー・チェンとアラファトも一緒か?”と長女婿のジュー。“ブルース・リーとシャイロックも来るのか?”は次女婿のダーエシュ(ちなみに、シャイロックとは『ベニスの商人』で登場する“肉で返せ”のあの金貸しユダヤ人のことです)。三女の婿のチンクは“カダフィー達も?”と。なんと二人は一緒くたですよ。笑えるねえ。。。

で、実は四女の婿はカソリックだけどコートジボワール人。これで、両親がずっこけた。コートジボワールの両親も猛反対。父親が息子に言い渡す。“向こうの家族が黒人差別を匂わせたら・・・その場で殴るぞ!”と。“殴る?止めてよ。ロール家は寛大だよ。姉さん達の旦那は、ユダヤ人、アラブ人、中国人なんだから。” “変わった家族だな。コミュニストなのか?”と父親。 アハハ、おかしいねえ。。。

この映画、フランスで公開して観客動員は1200万人を超えたらしいですよ。岡目八目で言いますが、決してこの映画、素晴らしきかな多文化共生なんていう話じゃないんですよ。ヘイト監視社会の裏話です。

まずこの映画の主人公はブルジョアです。つまり、パリ市内のイスラム系移民のテロやレイプとは全く関係ない安全なエリアで生活しています。それに4種の移民全員が経済難民ではない。むしろ高等教育を受けている移民なのです。そして、それぞれに純血です。劇途中でユダヤ人が言い放ってますが、“アシュケナージはぶっ殺す!”と。これ字幕スーパーでは、“ヨーロッパのユダヤ人”となっていましたが、白人のユダヤ人のことです。つまり本来のユダヤは有色人種としての誇りを持っているんですよね。で、コートジボワール人の四女の婚約者が登場すると、両親のために三人の婿が協力して破談させようとするんです。要するに、せめて四女だけは生粋の白人のフランス人と結婚させてあげようとする訳です。そこで、忠誠心自慢になって三人がラ・マルセイエーズを唄うんですよ。このシーンがちょっといいんです。

つまり、多文化共生っていうのは国家への忠誠あって初めて成立するってことなんですね。だから、どこぞの国のように、反ヘイトだと言いながら国家を侮辱してる他文化強制の国とは根本的に違うんですよね。。。
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