せーじ

エンドレス・ポエトリーのせーじのレビュー・感想・評価

エンドレス・ポエトリー(2016年製作の映画)
4.4
217本目も、以前から気になっていたこの作品を鑑賞…したはいいものの、鑑賞後に「リアリティのダンス」という前作にあたる作品があることを知ってしまい、それを知っていれば先にそちらを観たのに…と後悔。でも知らなかったのだから仕方がないよな…と思いなおし、ひとまず文章を編むことにする。

感想を書くのが難しい…
物語は、第二次世界大戦前後のチリ・サンティアゴで、厳格で心が無い父親と、無知で自分勝手な母親の元で抑圧されながら暮らしてきたアレハンドロ青年が、家を飛び出し、詩の創作という探求と様々な出会いの中で、自分自身の生き方を見出していくお話。

正直なところ、アバンギャルドな表現とイマジネーションの洪水に溺れそうになりながら画面を見つめていたので、あっという間に128分が過ぎ去っていってしまった。ただ、そんな中でも劇中印象的だったさまざまな演出は、奇抜で誇張されているようで実は本質をストレートに表しているように思えたし、要所で、てらいなく表現されているエロスも、エロスそのものをいやらしく怪しげに見せようとするのではなく「どうせ人間ついてるものは同じなんだから今更恥ずかしがってどうするんだコノヤロー」とでも言わんばかりのパワーで見せつけていくものだったので、そういうものなのだなと絆されてしまった。なので本来ぶっ飛んでいる映像を諸々見せつけられているはずな割には、ものすごくストレートでシンプルかつ、筋の通った話を率直に伝えようとしているように感じた。それは「死と共に生きること」そのものについての揺るぎない肯定であり、人間賛歌や人生賛歌に繋がるものなのだろうと思う。

一方で、登場人物の人間的な描写がとても濃密で、主人公であるアレハンドロ青年が様々な人々の影響を受けて成長していったというのがよく理解できた。観ていて印象深く思ったのが「マイノリティーである」ということに対しての厳しくも暖かな視点があるということだろうか。彼は同性愛者とも対等に友情を築こうとするし、障害やハンディキャップがある人々も受け入れようとしていた。もちろん女性だからと言って下に見ることは無かったし、そもそも詩人を含めたアーティスト全般をアレハンドロ青年自身は分け隔てなく受け入れようとしていた。これは現実のホドロフスキー監督が、その当時からアーティストという「マイノリティー」に属してきたということを自覚していて、その出自などから虐げられていたということが裏にあったから…なのだろうなと思う。
そして、両親や親戚一同などとの対立とその果てに掴むことができた終盤の「赦し」がとても感動的で、思わず胸が熱くなってしまった。年をとってもなかなかあの境地に辿り着くことはできないだろうし、ホドロフスキー監督自身の想いがビシビシと伝わってくる、名シーンだったと思う。それらをも一切合切含めて「生きろ」と伝えようとするこの作品の主題が、あのラストのくだりで完璧に積みあがって形作られたように感じた。

…とまぁ、どうにかうだうだ書いてきた割には、この作品について全く何も書けてないように思えてきてしまいます。ただ一つ言えるのは、創作活動をはじめとした「何かやりたいことがある」人であるならば、絶対に観るべき作品だろうとは思いました。そういった人々に向けて、あるべき価値を伝えようとしている様に思います。
全く書けていないので「リアリティのダンス」を観た後にもう一度本作を見直して、必要だったら書き直すかもしれません。
せーじ

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