KouheiNakamura

リリーのすべてのKouheiNakamuraのレビュー・感想・評価

リリーのすべて(2015年製作の映画)
4.0
一生の中で誰でも一度は抱く疑問。「わたしは何者か?」
1926年、デンマーク。この疑問をずっと胸に秘めて生きてきた一人の男がいた。アイナー・ヴェイナー、職業は風景画家。同じく画家である妻のゲルダと愛犬と、二人と一匹の幸せな日々。しかし、ある日を境にアイナーは自分の中に一人の女性の存在を感じる。その女性の名前は“リリー”。彼女こそがこの映画の主役である。

昨今、LGBTを題材にした映画が急速に増えている。「トランス・アメリカ」、「チョコレート・ドーナツ」、「キャロル」などなど。この映画もその一本。
何故今LGBTなのか?それは、彼らを異質で病気だと考えていた時代への反省の意味があるのだろう。彼ら、もしくは彼女らは僕らとなんら変わりない普通の人だ。考えてみれば当たり前のことである。しかし、その当たり前が許されない時代があった。ひょっとすると、今でも根底の差別意識は消えていないのかもしれない。
この映画の主人公リリーは、そんな生きにくい時代の中で《完全な》女性であろうとした。それはほとんど不可能に近い挑戦。しかし、妻のゲルダは懸命に女になろうとする夫を支える。

「英国王のスピーチ」などを手がけたトム・フーパー監督はこのあまりにも切ない物語を美しい映像と音楽で見事に描き出す。特に音楽は素晴らしく、ある場面では音楽を聴いているだけで涙しそうになったほど。また、当然の如く役者も盤石。トム・フーパーお得意のアップの多用にも十分耐えうる役者揃い。主役のエディ・レッドメインやアカデミー賞を受賞したアリシア・ヴィキャンデルが魅せる、複雑な感情を微細な表情の変化で表現してみせる技には舌を巻いた。また、水辺が何度か象徴的に出てくるなど細かい映像のメタファーも効いている。
基本的にとても静かな映画だが、見応えはたっぷり。余韻に浸れる、大人の映画。オススメです。
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