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お遊さまのRのレビュー・感想・評価

お遊さま(1951年製作の映画)
4.4
面白すぎたので長々語ります笑 エゴ丸出しの、自意識過剰な洋風ファムファタルもタチが悪いけど、エゴを包み隠した…、否、自分のエゴの尋常でなさに気づいてすらいない和風ファムファタルも相当タチが悪い。おるよね、こういう女。自分は善意にあふれてると思い込んでるのに、周りの人たちを不幸に引きずりこんでいくタイプ。本人は全くそのことに気づかない、天真爛漫に振舞って、知らぬ間に自分の得になるようにばっか行動する。さらに輪をかけてタチが悪いことに、お遊さんの妹お静が、これまた自分の幸福などそっちのけで、お姉さまの幸福だけを考える、盲目的自己犠牲タイプ。信之助がお見合いで出会うのはそんな姉妹、これが、信之助にとっても運のつき。またこいつもこいつで、意志薄弱、状況に流されることしかできない男。さらさらに、3人ともコテコテの京都人。どこまで本音なのか察するのが至極困難な、奥ゆかしきほのめかし文化の頂点。この作品のすごいところは、あまりにも和風な、ことばにならないねちっとした感覚を、絶妙に描いてるとこ。お遊さまったらどこまで意図的で、どれほど生来の爛漫なのか、完全に謎で、自我がこっそり顔をのぞけるヒントを小出しにしつつも、あとは観客にどかっと任せてしまうこの自由さ。これ、実は先日1回見て、なーんか腑に落ちぬため、翌日すぐに2回目を見たのだが、見え方が大きくかわったもん。1回目は、お遊さまがそれほど自意識が高くない風に見てて、あんまり刺激のない話やなー、と少し退屈してんけど、2回目は、お遊さんをファムファタルと決めたうえで鑑賞。すると1回目とは全く違う世界が展開して、その感情のやりとりの繊細なゆたかさに舌を巻いた。なるほど、やっぱし、お遊さんにも罪があることが前提。そう考えると、エンディングは恐怖でしかない。すべてを失った信之助とお静、すべてを手に入れたお遊、こんな皮肉な物語が、これほど無邪気のヴェールに包まれて描かれた映画が他にあるだろうか。それにしても、ワンショットワンショットの美しさは驚異的で、それぞれに自然の趣を組み込んだ画はぶるっとくる。あとやっぱ田中絹代はすごい。こんなにつかみどころのない人物を、巧みに演じきってる。自分のなかにあるおそろしさが全く見えていない、疑いもしない、それでいて、知らず知らずにそれが表面にうかんでくる、あの微妙な感じを見事に出している。すごいなぁ。
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