NM

ラ・ラ・ランドのNMのレビュー・感想・評価

ラ・ラ・ランド(2016年製作の映画)
3.8
ミュージカル映画が好きな人なら必ず気にいるかというと、ちょっと違うようだ。

元気!自分らしさ!希望!みたいなものを訴えるだけではない、大人の物語。

オープニングの歌とダンスはまさにそれを歌ったもの。夢は叶う!くじけない!という、王道アメリカンドリームを求める多くの人のスタートを励ますような歌。

普通ミュージカル映画は感情の高まった時に歌唱シーンが始まるものだが、これはそうでもなく、何でもない時に歌詞のない音楽やダンスシーンがある。
その音楽や雰囲気を純粋に楽しむものであって、それによって何かメッセージを伝えたいという主旨で挿入されているわけではないと思われる。

前半の音楽は強いて言えば、とにかく街は夢に溢れていて、二人が出会ったら最高なんです、といったようなこと。

出会いは冬。
街はクリスマスムード。
ジャズを愛する男セブと、女優を目指す女ミア。
四季を通して二人の関係が変わっていく。

ジャズはケニー・Gしか知らず、『アイ・ラン』をリクエストしてノリノリになるようなセンスだったミアに、セブはジャズバーを持つ夢を語り、ミアもその夢と「純粋なジャズ」の魅力を共有する。

その矢先セブに大口契約の話が。だが本来やりたい音楽とは違う(彼はすぐ『枯葉』を弾く。パッションのままにアレンジし主張する)。

ジャズ、というのは何かを象徴しているのかも知れない。
セブの言う通り、一昔前は多くの人がジャズに酔いしれたが、いつのまにか、偏屈で頑固な人が聴くもの、というイメージになってしまった。CDも売れづらくなりジャズ喫茶も次々姿を消した。音楽自体は変わっていないのに、見る目が変わっていった。
(この映画自体はジャズに詳しくなくても鑑賞には問題ない。詳しくないほうが余計なことが気にならず良いぐらい。ミアもそうなのでセブが説明してくれる。)

これは理想の音楽を求めるあまり自分を曲げられないセブの性格とリンクする。
変えなければいけないもの、変わってはいけないもの、その見極めは難しく、その選択は人生を左右する。

ついに仲間に説得され、理想を曲げて契約にサインするセブ。

順調に出世していくが、そうなるといざコンサートで発表される曲がとてもダサく聴こえる。
ミアもそれを聴いて驚く。セブが教えてくれたあの魅力的な音楽とは全然違う。
単体で聴けば別にそこまで最低ではないはずだが、それまでのストーリーでこんなにも音楽の聴こえ方が変わってしまう。
二度目以降にこの作品を見たときも、前半のハッピーな曲は何だか薄く感じられる。別に内容はおかしくないし、後半の曲と主旨は似ているのに、どうも深みが違って聴こえる。

ここで季節はちょうど秋を迎える。これは嫌な予感がする。冬にはどうなってしまうのか。
因みに個人的にはこの辺りからの切ない音楽が好み。

そのうちに店を諦め、理想も捨てたセブ。もうあのみじめな生活には戻りたくない。
変わっていくセブを苦々しく見守るミア。私の夢中になったセブはもういない。

二人はすれ違い、ついに出会いさえ否定してしまうセブ。

やがてセブは毎日アイドルのようなことをさせられうんざり。
一方演技も脚本もウケず絶望し、ついに失敗することが怖くなり挑戦をやめてしまうミア。
道を違えたとも言えるが、正確には二人とも夢が叶っていない状態。
別れてしまうには実に惜しい二人。

俳優のオーディションというのは実に難しい。言われた通りやるだけではだめだし、何でも良いからやってみてと無茶振りされることも。その中をライバルたちから勝ち抜く可能性は限りなく低い。ミアが前半で受けまくるオーディションだって、そこまで酷い内容ではない。だけどそれでも受かるとは限らない。

ミアが後半のオーディションで歌う曲(『The Fools Who Dream』)は一番気に入った曲かも知れない。
『レ・ミゼラブル』の『I dreamed a dream』と主旨は共通するものがある。
大きな夢を追う者、平凡でいいから小さな幸せを掴みたい者、全ての人に、頑張っているのは一人じゃないと訴えるかのよう。

私が「秋」に予想した「冬」とは随分違ったものだった。意外な結末。
最後のピアノのワンフレーズは最も感動的。
それにしてもこうなるとは。やられた。

ストーリーに音楽がつけられているというよりは、長い音楽の上にストーリーが乗っている感じの作品だった。
バレエに少し近いかなとも思う。基本的には視覚と聴覚で雰囲気を楽しみ、その間にストーリーがある。

大人向け。あまり深く考えず、一人でぼんやりと観るのに向いていると思う。寝落ちしたって良い。ただちょっと切ない気持ちで寝ることにはなるが。
理屈よりも音楽と雰囲気を。

メモ
MOJO……イギリスの音楽誌。
NM

NM