タキ

LION ライオン 25年目のただいまのタキのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

「LION」というナゾタイトルと「25年目のただいま」というネタバレタイトルを同居させるところがいかにも邦題らしい。LIONというタイトルのナゾはラストのラストで明かされるのだが彼が送ってきた知恵と勇気と孤高の人生を見てきた私たちはそのタイトルに深く納得せざるをえない。
インドで迷子になりオーストラリア人の夫婦の養子になるまでが前半部分。サルーと兄との濃密な関わり、仕事に追われる母とのささやかな時間、インドの子どもたちの置かれている状況、これらを時間を割いて丁寧に追ってゆく。ちいさなサルーの目線で描かれる過酷な世界にドキドキハラハラし彼の無事を心の底から神に祈る。後半はGoogle earthを使って5歳までインドで住んでいた場所を見つけ、家族に会いに行くまでが描かれる。友人の提案から始まる故郷探しだったが、たったひとりで、恋人のルーシーさえ寄せ付けず孤独の中で成し遂げてしまう。義理の兄弟マントッシュとの複雑な関係、義理の父母への感謝と遠慮。前半の動に対して後半はサルーの内側に深く潜ってゆき静かに物語は進んで行く。この部分をドラマチックに描かなかったところが逆によかった。汽車の線路を効果的に使っており5歳で人生を狂わされた線路に在りし日の兄を想いながら再び踏み出して行くラストシーンは胸に迫る。
たくさんの時間を割いて描いた前半部分はストリートチルドレン救済のためのアドレスへと続く布石であったと最後の最後で私たちは知ることになる。
自分たち夫婦の実子を持たず不運な子どもたちを育てることが意義のある人生だと言い切ったスーの発言に彼女たち夫婦が送ってきた人生の片鱗を見ることしかできなかったけれど、彼女は「不幸な子ども」ではなく「不運な子ども」と言った。不幸ではなく不運。これは大きな差ではないだろうか。幸せの尺度は人それぞれであり貧しくとも幸せであるひとはたくさんいる。スーの言葉には運悪く肉親と離れ離れになってしまった子どもたちを救いたいという想いの強さがある。サルーは不幸ではなく不運だった。幸せかどうかは人が推し量るものではない。幸せだけはいつも彼の手の中にあったのだ。
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