踊る猫

サウルの息子の踊る猫のレビュー・感想・評価

サウルの息子(2015年製作の映画)
4.2
強制収容所でゾンダーコマンドとして生きる主人公が、ひとりの少年の死体を埋葬すべく奮闘する話。と、ストーリー自体はシンプルだがそのシンプルさが骨太さにも繋がるし、襟を正して向き合わなければならないと感じさせられる。主題の重さだけではないだろう。非日常/非常事態を生きる切迫した心境の主人公のその心理が、台詞で吐露されるのではなく密着したカメラによるカメラワークと、無表情で淡々と動く主人公のその表情で表されるからなのだろうと思う。死体が埋葬されることを許されず、金品を残して物体として処理される世界。そこで埋葬に拘泥する心理は、単なる親子の関係だからと安直に片づけられないものを感じさせる。だからこそラストは、仮初のものではあったのかもしれないが、それでもなお主人公にとって救われたのではないかという気がした(あそこで見せた笑顔が忘れられない)。死を悼むことは、死者がなにか実利的なものを残すか否かという次元で往々にして片づけられがちな――それは金品だけではなくて、彼/彼女が「後に残るなにを成し遂げたか」という次元のものも含まれるだろう――昨今、そうした実利の次元を超えて人を人として存在せしめる究極の祈りなのだろうと思う。
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