末期がんを宣告された双葉には、やるべきことがあった。
蒸発した旦那を連れ戻し、銭湯を再開させること。
弱い娘を独り立ちさせること。
そして、彼女に真実を告げること。
死にゆく母が持てるすべてを愛にかえて周囲を動かすとき、残された者たちは、その愛に応えようと、思いもよらぬやり方で彼女を葬るのだった。
余命宣告を受けた人間が残り少ない命を燃やして何事かを成すというシナリオは、今やお決まりのパターンになりつつある。双葉は、その手の作品の中にあって、今までに見たどの主人公よりも、愛の熱量が凄まじかった。こんな人が一人いるだけで、世界から争いがなくなるに違いない。
脇を固める人々も、母に負けず劣らず、魅力的である。
人間的にはクズだけれど、そこにいるだけで画になってしまう、お父さん。
ちょっぴり弱いけれども、芯の強さは母譲りの娘。
生みの母に捨てられてもなお、その愛を信じようとする父の隠し子。
旅先で出会った自称バックパッカーのたくみくん。
探偵の親子。
海の家で働く君枝さん。
皆、双葉お母ちゃんの熱い愛に包まれ、生きるエネルギーを与えられた。
ラストシーンの葬り方は、倫理的には賛否両論あるだろうけれども、究極の母性に応える返礼として相応しい。
「湯を沸かすほどの熱い愛」とは、実に上手いことを言ったものである。