せーじ

湯を沸かすほどの熱い愛のせーじのレビュー・感想・評価

湯を沸かすほどの熱い愛(2016年製作の映画)
1.9
214本目。以前から話には聞いていたものの、フォロワーさんたちの評価からなんとなぁく避けていた作品。
とはいえ、観ないことには始まらないと思い、意を決してレンタル、鑑賞。




…なにこれ気持ち悪い…
この作品が好きな人には非常に申し訳ないんですけれども、作品に漂う「善きこと」だとされている考え方に全く乗ることが出来ず、強い嫌悪感を覚えてしまいました。

まず思ったのが「思春期の女の子」に対する性的な視点についてのデリカシーの無さと、それに伴ういじめ問題の取り上げ方についての雑さでしょうか。
冒頭、宮沢りえさん演じる主人公が、杉咲花さん演じる娘の下着を干すくだりから始まるんですけど、自分は「なんで下着…?」と思ってしまったんですよね。それでその後主人公は娘に新しい下着を贈るんですけど、そこでも「なんで…?」と思ってしまったんです。別にわざわざそういうものを取り上げなくとも、思春期の女の子との母子愛を描く手段って、他にも色々あると思うんですよね。一応それはその後のくだりで伏線が回収されるんですけど、彼女がいじめの抗議として学校の教室でやったその方法に、自分はドン引きしてしまいました。いくら「立ち向かえ」と言っても、あのような方法ではいじめをはねのけることが出来たとしても、乗り越えることにはならないと思うのです。別に「逃げること」そのものが悪いことだとも思わないし、親だったら学校に行かせる前に子供を守るべきだと思いますし。「それが出来なくなるから主人公はああいう態度をとっているのだ」と言われるとその通りなのかもしれませんが、それにしたってやり方があろうに…と思ってしまいます。ゲスい考え方をしてしまうと、最初からあの場面のあの画を作り手が撮りたかっただけで、その為に逆算してシナリオを作っているだけなのではないかと思ってしまいます。
下着と言えば中盤、家出をした腹違いの下の娘を主人公と上の娘の二人で迎えに行く時、汚した下着をドアノブにかけて立ち去るというのも訳が分からなかったです。それもそういう画が撮りたかっただけだとすると…気持ち悪いだけですよね。

そもそも、不治の病におかされたという主人公とその一家の行動自体、個人的にはツッコミ所満載で違和感が拭えなかったです。主人公はいじめられている娘を無理矢理学校に行かせようとするのに、いきなり旅行に行こうと言い出しますし、銭湯を休んで家族全員で行くのかと思いきや、旦那は残して病人である主人公だけに車の運転をさせるんですよね。しかも旅行先で娘に、突然とんでもない秘密を明かして無理矢理その当事者と引き合わせようとしますし、お玉で殴ったり、ビンタしたり、他人の家のガラスを割ったりと、全体的にやりたい放題でビックリしてしまいます。
また、蒸発していた旦那も、戻ってきてヘラヘラとしたままきちんと家族に謝らないどころか、主人公が入院しても見舞いにすら行きません。人間ピラミッドをやろうとする前に、やるべき事があるだろうと思うんですけど、誰も何もその事について咎めないのですよね。更に主人公たちが旅先で知り合った松坂桃李さん演じる青年も、なんだかよくわからない理由で仲間に加わりますし、あの探偵も本来だったら全力でアレを止めるべきなのに、なんだかよくわからない理由で納得してしまうんです。その描き方というか作品の根底に潜む考え方そのものに、深い嫌悪感を覚えてしまいました。なので、エンディングのくだりは「…は!?」と思ったのは言うまでもありません。

とはいえ演者の演技そのものは―特に宮沢りえさんと杉咲花さんは熱演されていましたし、ラスト直前の静かな演技は、流石だな、凄いなとは思いました。
ですが、個人的にはこの作品が伝えようとすることには全く同意出来ないですし、心の底から気持ち悪いと思ってしまいました。
…たぶん自分は作り手と価値観がとことん合わないのだと思います。
そしてこの作品のDVDが、TSUTAYAで「親子で観たい映画」コーナーに置かれていたという事実が、心底恐ろしいなと思ってしまいましたね。。
せーじ

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