wiggling

光のノスタルジアのwigglingのレビュー・感想・評価

光のノスタルジア(2010年製作の映画)
-
こんなに独特の語り口のドキュメンタリー映画は初めて観た。パトリシオ・グスマン監督のことも知らなかったし。前回2011年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で最優秀賞を獲ったのも頷ける。他の作家には到底作れそうにない、類まれな作品です。

地球上で過去と最も近いのが南米チリなんだというお話。宇宙観測と政治弾圧の歴史、この全く関係のなさそうな二つの眼差しが過去の記憶をめぐる冒険へと収斂していく。

アタカマ砂漠の乾燥した気候と地形は宇宙観測に最適で、多くの科学者が集まり最新の研究を行っている。ところが、宇宙観測で得られるのは過去の宇宙の姿であって現在ではない。過去を知ることで現在を理解し未来を予測するという研究なんですね。

一方、1970年代からチリはピノチェト政権による政治弾圧で、何万人もの国民が殺害され強制収用所に入れられている。殺された人々はアタカマ砂漠に捨てられ、今でも犠牲者の遺骨を砂漠の中から探している親族がいる。砂漠は過去の悲劇も記憶している場所でもあるわけです。

そして、遠い宇宙と砂漠は過去の記憶でつながっている。記憶こそが人が人である所以であることをパワフルな映像で描いています。まるで映像詩のような幻想的な映像と壮大なテーマ、それが見事に一本の映画として結実しているんですね。もはやドキュメンタリー映画とは言えない、新しい表現形態とでもいうべき何か。

劇場でしか味わえない映画体験ですので、是非足を運んでください。
wiggling

wiggling