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快楽の悪の華のotomisanのレビュー・感想・評価

快楽の悪の華(2013年製作の映画)
3.5
 「快楽の悪の華」と聞けば客の半分は身を退くだろうと配給元は踏んだに違いない。惹かれて飛びついたあとの半分はガッカリして半分観てお開き。これで、この映画がなんの話か誰も知らないままとなる寸法だ。この映画を観られて困る誰かは胸をなでおろした事だろう。ちなみにRottenTomatoesもIMDbもユーザーレビューは0件、また、翻訳タイトルも英日葡3言語だけである。いかに嫌われているか知れよう。
 では誰が「快楽の悪の華」を望んだのか?当然観られては困る誰かさんだが、それは売りたい配給元に売らせず、かつ黙らせた誰かでもあるが、権力があるのかカネがあるのか、それともどちらもあるのか?そんな問いを無下に他人にぶつけてはいけないから、映画の内容からそれを推測してみよう。

 物語は無職の元弁護士が高級住宅のローンの残49年分のため、男娼稼業を妻に内緒で続けているのが始まり。
 ある日、男の客が付いてしまい一度は断るが、それが現職環境大臣の夫と知って強請ってやろうと写真を送り付けた事から、政治ゴロ・企業ゴロで知られる「エネルギー王」と対決する羽目になるという展開だ。これだけでメルケル政権から白い目で見られそうなと思うだろう?
 ふつうなら、一私人が「王」とけんかになって勝つはずがないと思うだろうが、この男、元は指折りの法律事務所の弁護士で、「王」の企業乗っ取りを防衛した実績もある腕利き。ただし弁護士資格を剝奪されるほどのヤバいインサイダー山を踏み誤って今の男娼という具合で、ゴロ相手、悪事なら敵の勘所も心得た玄人というわけである。
 しかし、引き際は心得ていて大臣スキャンダルのもみ消しプラス、「王」の弱みを伏せ通す約束プラス、むかし邪魔した企業買収の、今度は後押しをする密約も付けて家族の無事を買うという、120%犯罪で構成された格好である。政権が知らん顔しても世間はこんな話を支持するはずがないだろう。
 なお、当時の環境大臣は男性。連邦議会9年目、前年に現職で初入閣となったが、それ以上は不明である。ただ、このポストは原発ゼロ政策、再生可能エネルギー政策では、電力買い取り制度の問題点が翌年の選挙の争点になる事、安価な太陽光パネルを求めれば中国に接近せざるを得ず、その推進は品質性能において優るとされる国産品を衰滅させる事であって注目の地位、つまりはゴロに飼われた大臣などと断じて詮索無用のことなのは間違いない。

 ところで、この映画の元タイトルは「Trugschluss」、「間違い」「あやまち」なのだが、この男にぴったりだ。あわせて、この語には音楽でいう「偽終止」の意味もある。男が妻のために「王」と取引したのは二案件だが、それを偽終止であるとほのめかす様に「王」による製薬会社買収成立が十月後に報じられる。かつて男が「王」の乗っ取りを撃退し、強請りに当たって男が「王」の牽制に利用した企業でもある。「王」との際どい接触ののち悪い奴同士あのまま終われるわけがない。それに偽終止の余韻があとローン48年分は続かないと男はまた男娼に逆戻りだ。「王」に見込まれて余韻を楽しめるなら男は王を継ぐ者となれるだろうか?そんな余韻を残してアウトローの道は深まってゆく。