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ニーナ・シモン 魂の歌のKKMXのレビュー・感想・評価

ニーナ・シモン 魂の歌(2015年製作の映画)
4.3
 ニーナ・シモンは50〜60年代のアメリカで人気だった黒人のミュージシャンです。その音楽性は幅広く、ジャズだけでなくブルースやポップス、ロック等をミックスしており、何を歌ってもニーナ・シモンになるという天才音楽家でした。しかし、そんなニーナは70年代以後、突如表舞台から去ります。その理由を追いかけたのが本ドキュメンタリーです。

 ニーナ・シモンは、俺がもっとも敬愛する音楽家のひとりであります。とにかく、ニーナはの歌声は業が深く、めちゃくちゃ胸に染み入ります。ちなみに顔も業が深い。
 そして、本ドキュメンタリーを鑑賞したところ、ニーナの人生は予想通り業が深かったです。いや〜業が深い。


 ニーナ・シモンは幼少期にピアノの才能を見出され、白人の音楽教師からクラッシックピアノを教え込まれます。天才的な技巧を身につけたニーナは世界初の黒人クラッシックピアニストを目標に掲げ音大を受験しますが、黒人であることを理由に落とされます。
 そして、生活のためにバーラウンジでピアノを弾くようになり、やがて歌うように促されて弾き語りを始めます。その頃、彼女は『小さな女の子』を意味するニーナという芸名を名乗るようになりました。そして弾き語りが評判となり、ニーナはデビューします。
 デビュー以後は一見順風万歩なキャリアを積んでいったニーナですが、裏ではDV夫に搾取され、自分を見失っていました。そして、ニーナは当時大きなムーブメントであった公民権運動にのめり込み、暴力を肯定するような発言をする等、態度を先鋭化させていきました。そしてニーナは居場所を失っていく…という半生でした。


 ニーナは孤独ですね!本当にひとりぼっち。意外と成人以降のニーナよりも、子ども時代のエピソードが印象に残ってます。小さい頃からピアノのトレーニングをしていたニーナ。黒人コミュニティでそのような子はいなかったため、周囲から浮いていました。ニーナは子ども時代からずっとひとりぼっちなんですよね。
 彼女の芸名『ニーナ=小さな女の子』も、彼女を見事に象徴しているなぁと感じます。彼女は自由自在な天才音楽家、そして公民権運動以降は過激でタフな女という雰囲気ですが(顔も怖い)、彼女の本質は運命に翻弄される無力で孤独な少女なのかもしれません。そんな少女が差別により未来を奪われ、DV夫に金も判断力も奪われ、自分ではコントロールできない激しい怒りに自らの居場所も奪われました。
 ニーナの人生は、まるで人類の悲劇をひとりの人間が体現しているように感じました。

 しかし、ニーナは天才でした。痛めつけられた孤独な魂を見事な音楽に昇華させる力がありました。彼女は真のアーティストだと思います。なので、彼女の歌は力強いです。痛みと苦しみの中、それでも生きることを肯定するような深みがあるのです。
 彼女の人生を知らない頃から、俺はニーナの歌声に心をふるわせていました。彼女の歌声に込められていた痛みを感じ取っていたのだと思います。そして彼女の歌声を聴いた世界中の人々も、彼女の人生を知らぬままに、歌に託された痛みを感じているのでしょう。
 ニーナは現在でも世界的に愛されているミュージシャンです。特に黒人女性ミュージシャンたちからは最も尊敬されている先人のひとりで、神のように敬愛されています。


 ニーナの代表曲『Ain’t Got No, I Go Life』では、以下のように歌われます。
 まさに、この曲はニーナ自身を歌っているのかな、と感じました。無力な少女ニーナは奪われ、恐れ怯える人生を送りました。しかし、誰もニーナからは彼女のアーティストとしての生を、自由を奪うことはできませんでした。奪われなかった彼女の魂は、いまも生き続けて、愛され続けるのです。


私には家も靴もお金もない、
家族も友だちも好きになってくれる人もいない
運命も幸運も、信仰も愛もない
私には何もない

それでも私は生きている
だから、私は何かを持っているのだ
誰からも奪い取られない何かを

私には髪が、顔が、目と鼻と口がある、
笑顔があり、言葉がある
行動する力も癒しもあるし、
あなたたちと同じように悪い時もある
心も魂もある

私には命がある
自由がある
人生があるんだ

Nina Simon “Ain’t Got No, I Go Life”

‪https://youtu.be/apdmD-5rFjQ
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