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死の谷間のNMのレビュー・感想・評価

死の谷間(2015年製作の映画)
3.5
人気小説の映画化。
実際の登場人物は三人だけ。
追い詰められた状況で、それぞれ激しい葛藤が起こる。


奇跡的に核汚染を免れている谷で一人で生き残っていたアン。
豊かな自然に囲まれ、牛や鶏を飼い、野菜を育ててきた。
弟含め他の人たちは他の安全な場所を探しに行ったまま戻ってこない。
聖職者だった父の影響で信心深く、それだけが心の支え。

ある日政府の科学施設から抜け出してきたジョンがたどり着く。
施設は地下にあったためそこでの暮らしが嫌になったと語る。
ジョンは科学者であり、アンのようには信仰はない。

甲斐甲斐しく世話してくれたアンに愛情を抱くのに時間はかからなかった。
アンも孤独で押しつぶされそうな時にふと現れた彼を大切に愛おしく思った。

やがてもう一人男がたどり着く。
ジョンは警戒するが、アンはジョンのときと同じように彼ケイレブを家に入れ世話をした。
三人の生活が始まる。男手が二人になり資源の確保や水車発電など環境の復興が一気に進んでいく。

ケイレブは若く謙虚。アンたちに積極的に協力し、何より信仰があった。
そしてアンに、ジョンと本音で話し合ったことがあるのか、信仰がない人と続けていけるのか、問う。
そしてジョンはここに来る途中に見かけた、汚染で正気を失った少年を置き去りにしたこと、そしてその少年はアンの弟だと思うと告白。涙を流すアン。

アンの気持ちは揺らぎ、ケイレブに傾く。それを察して危機感を抱くジョン。
ケイレブは、以前ラジオでまだ安全な土地があると聞いたと語る。ジョンはそんな情報を信じないが、ケイレブにアンを連れて行かれる可能性が怖い。

ジョンが寝ているある夜、ジョンとアンは抱き合った。
翌朝明らかに態度が変わっているケイレブを見て察するジョン。気まずそうなアン。

作業をしながらケイレブに、君は重要な存在だからここに残るようにアンに頼んでおいたんだと話す。
だがケイレブは、嫉妬はあなたに似合いませんと嘘を見透かす。
二人で水車を完成させる最後の作業を終え、崖を上がっていく。

正直なアンはジョンに謝罪。
だがジョンは、ケイレブはさっき出ていったよと話す。ラジオで聞いた安全な場所へ向かったと。

父が説教をしていた教会。寂しく残されたオルガンを静かに弾くアン。
ただ一人真相を知るジョンは、手を組んで苦しげな表情でそれを見つめる。


それまで割りと静かに進行してきた反動もあってラストシーンの迫力が凄い。すべてを物語る。あまりにも重くのしかかる自責の念。これから一生背負って生きていくのだろうか。
駄目だ駄目だと自分のエゴにブレーキを賭けていても、絶好のお膳立てが訪れたときにも最善を選択できるか。
作品に完全な悪人は出て来ない。この状況なら誰しも倫を謝る可能性があると思う。
登場人物たちはあまり詳しく心情を語っていないが観客にしっかり伝わるようにできている。しかしくどくもないし雰囲気を壊さない。
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