晴れない空の降らない雨

三人の騎士の晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

三人の騎士(1944年製作の映画)
-
 前作『ラテン・アメリカの旅』の続編。ところどころマルチプレーン・カメラ使っているし、上映時間も70分に延びているし、前作より金かかっている気がする。
 今更ながら、発想の自由さ・柔軟さには本当に驚く。霧やスポットライトを物体のように扱ったり、とにかく何でもありで、アニメーションしているなぁというか。第1編の「さむがりやのペンギン パブロ」では、寒がり屋のペンギンが南国をめざして、何度か失敗したあとで氷を削った船で旅に出るが、赤道直下で氷が溶けてしまう。バスタブの栓も抜けてしまって沈みかかるが、シャワーを穴にさすことで、シャワーをジェット代わりにして移動する! いや、全くナンセンスなんだけど、こういうのって普通は思いつかない。
 
 そして本作は想像力が自由奔放すぎて、ときどきかなりヤバいことになっている。最後は『ダンボ』のピンクの象をさらに過激にしたような映像になる。とにかくドナルドの形状変化がひどい。あるときは膨らんで風船アートみたいになる。あるときはサウンドトラックの波形(『ファンタジア』のパロディ)の中にドナルドが取り込まれる。あの音の波形のギザギザの線になってしまうのだ。
 
■メアリー・ブレアの仕事
 本作の価値の半分以上は、メアリー・ブレアのアートワークにあると思う。
 もちろん、その後の彼女は『シンデレラ』『不思議の国のアリス』『ピーターパン』と、本作よりずっと有名な大作に参加していく。しかし、ブレアのスタイルはあまりに様式的すぎて、結局はディズニー作品と合わず、そのアイディアの多くは破棄されたのである。彼女の才能が比較的自由に発揮されたのは短編作品だった。
 この南米旅行はブレアの芸術性に強い影響を与え、またこの旅行を踏まえた『ラテン・アメリカの旅』『三人の騎士』が初めてブレアが企画段階からかかわることのできた作品となった。本作では、彼女の色彩センスを存分に拝むことができる。絵が普段のパートとあまりに違うのでひと目で分かる。
 特に、ドナルドとホセが乗った汽車が、南国の極彩色のジャングルを抜けていくシークエンスは必見である。黒を基調としており、葉の緑・花の赤・川の青などにも黒色を混ぜて、鬱蒼としたジャングルの怪しく神秘的な雰囲気が伝わってくる。そんなジャングルを、カラフルなオモチャのような汽車がゆっくりと走り抜けていくこのシークエンスを観ていると、サイケデリックな感覚さえ生まれる。
 
■実写との合成
 もともと『ファンタジア』(40)の時点で指揮者とミッキーが握手するカットから始まり、今じゃ観れない『南部の唄』の試みを経て、本作では、ポケモンGOみたいな感じで、とにかく実写映像のなかにドナルドたちが飛び込む。
 汽車に乗ってバイーアに着くと、女性の歌声が聞こえてくる。やってきたお菓子売り(ヤヤー)にドナルドとホセは一目惚れ、取り合う様子をコミカルに描き、最後は男も女も集まって一緒に踊るという筋書き。ちなみにこの菓子売りの衣装もブレアがデザインしている。
 このバイーアでの合成部分は、意外といける。実写とドナルドたちの間の芝居は最小限で、基本的に実写のダンサーたちに合わせてドナルドたちも踊っているだけだから(いやしかし、これ大変だったろうな)。とはいえ、単に奏でて歌って踊っているだけの映像を延々と見せられても別に楽しくはない……。最後に、お菓子売りに抱き上げられて熱いキスをされるドナルド。ここも、抱き上げる部分はさっと済ませて違和感抱かれないようにしているし、キスシーンは女性の後ろ姿しか映らないなど工夫してある。
 それにしても、どの町に行っても南国美女にドナルドが舞い上がる展開なので、けっこう大人向けな作品の気がする。
 
■終盤はめちゃくちゃ
 そのあとはパンチーノ(オンドリを擬人化した2丁拳銃のメキシカン)が加わって、ミュージカルパート。ついでポサーダスにおける、聖母マリアとヨセフの旅を子どもたちが再現するクリスマスの風習を紙芝居風に説明する(ここではブレアが描いたイラストが使われている。やはり動かしづらいデザインなのかもしれない)。
 そして3人の騎士(ドナホセパン)による小芝居があって、今度はメキシコへ。ここでも最初にブレアのイラストによる街の描写があるなど、ブレア大活躍である。そのあとはずっとメキシコの文化を伝えるパートで、また実写にドナルドたちを合成させている。踊ったり、踊ったり、海水浴したりするなかにドナルドが飛び込んでいって一騒動、みたいな。水着女性たちと戯れるやたら長いシークエンスは正直、かなり引く……
 
 だんだんと観るのが苦痛になっていくのだが、最後の夜のメキシコシティは「ピンクの象」を超えたクレイジー加減。子ども泣くだろこれ。歌う女性の顔が花に合成されて、ドナルドが彼女にキスすると、今度はダンサーの足とドナルドたちが合成されたり、そこから飛び降りると足だけで歩いていったり、砂漠でサボテンたちが踊りだしたり、ひたすらサイケデリックな映像が続く。
 ここまでワケ分からん作品だとは思っていなかった。でも大ヒットしたらしい。ワケ分からん。