新潟の映画野郎らりほう

クリーピー 偽りの隣人の新潟の映画野郎らりほうのレビュー・感想・評価

クリーピー 偽りの隣人(2016年製作の映画)
5.0
【溶解する境界線】


高倉(西島)と西野(香川)が初めて顔を合わせる場面。一方的且つ好き放題に難詰を浴びせ立ち去る西野。茫然とする高倉の表情に、高架上を通過する列車のけたたましい走行音が鳴り響く。
或いは失踪事件現場宅前に佇む早紀(川口)を、野上(東出)と共に激しく詰問する場面でも、後景高架上を喧しく列車が過ぎてゆく -何れも心のざわつきを示す様に…。

落花生であろうか-殻を割る音がダイニングルームに響き渡り、康子(竹内)との関係性のひび割れを顕現する。ジューサーミキサー、扇風機然り、 不穏を醸成する環境音の用法が実にいい。



開巻最初に映る窓格子柵。大学オフィス内のボーダーなパーテーション。一部人物のボーダー柄衣装…。
此方と向こうを分け隔てる境界線でありながら、その隙間から識らず異質が浸蝕してくるとゆう事か-。

その異質に気付いたか-野上が歩を強め歩道を行く姿が、車歩道分かつ格子柵越しに横移動で捉えられる。その刹那 一本〃が独立していた筈の柵格子は、モーションブラー(残像)に依って不鮮明化し 挙げ句境界線は溶解する。

思い出そう、立ち入り禁止を示す西野宅前工事注意喚起の“縞模様の仕切り”を-。

直ぐ隣は全くの異質。知らぬ間に境界線は溶解し浸蝕されている。
高倉が何度も言う「面白い」。-境界を越え浸蝕していたのは、実はどちらだったのだろう。




〈追記〉
香川照之の立ち振る舞いや、笹野高史の顛末等、不穏の中に散見される諧謔な妙趣。平然と挿入される 大型バン車内の「THEスタジオ撮影」や大学講義に於ける「THE説明」の意表。

絶叫する竹内結子を見て、戦慄と共に 安寧にも似た無上の快楽が湧き起こり、暫し自分自身が解らなくなる。
前述した西島秀俊の呟き「面白い」同様、黒沢清は 観客の恐怖と悦楽の境界をも溶解させている。




《劇場観賞》