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クリーピー 偽りの隣人のymdのレビュー・感想・評価

クリーピー 偽りの隣人(2016年製作の映画)
4.5
黒沢清がエンタメに踏み込んだ渾身の一作。
だけどもあくまでも黒沢清の映画なのである。

そうある以上、今作は一般的なジャンル映画とは似て非なるものであり、いつものあの居心地の悪い、奇妙な違和感が充満している。
じりじりと足元を侵食してきて、いつの間にか自分を絡めとられるような不穏さ。

前半のリアリティのある気持ちの悪さが少しずつ瓦解していき、後半の浮世離れたダークファンタジー的な世界に移行していく手法というのは、『CURE』や『トウキョウソナタ』、そして以降の『散歩する侵略者』などのように、装丁こそ違えど黒沢映画を特徴づけるポイントである。
なので"黒沢清の映画”として本作と向き合えるかどうかで今作への印象は大きく変わるかもしれない。

『叫』や『回路』、『ドッペルゲンガー』などは明確な異物が画面に登場していたものの、この映画にはそういった霊的なものは存在せず、あくまでも恐怖の対象は人にある。そしてその人が漠然と、なのにどこかが決定的に狂っていると感じる瞬間こそが最も恐ろしい。

未解決事件と隣人問題を平行で進めるサスペンス的な語り口は素直に面白いし、ホラー映画的な空間の見せ方もイズムが全開で見事。
そよぐカーテンやあの印象的な運転シーンなど、ファンにはたまらない要素もしっかりと入れ込んでいる。

実際の事件をベースに脚色されている本作は、そうした前情報からするとずいぶんと現実的描写から飛躍しているものの、リアリティというものよりも映画的な不気味さ・面白さを突き詰めた結果なのだと思う。
単に黒沢清という人はリアリティの追求というものに興味がないだけとも言えるかもしれないけど。

世界レベルで見ても傑出した香川照之の怪演は言うまでもなく素晴らしいのだけど、西島秀俊と東出昌大の使い方の巧さに舌を巻いた。
棒読みなどと揶揄されることの多い二人だけど、その”無機質感”こそがこの映画の気持ち悪さに密接にリンクしている。
他の黒沢映画にも登用されているけど、彼らを重宝している理由をまざまざと感じた。

公開当時に観ていたけど再鑑賞してもまったく鮮度が損なわれていなかった。
観る人を選ぶクセの強い作品だと思うけど、ぼくは大好きな映画。
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