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ベイビー・ドライバーのLATESHOWのレビュー・感想・評価

ベイビー・ドライバー(2017年製作の映画)
4.8
冒頭のジョンスペ。

完璧な編集。

映画館でフロアよろしく
踊りだしたくなる衝動。

犯罪者を逃すドライバー...
ゲッタウェイドライバーの物語。
前評判から絶対面白いのはわかっていても
エドガー・ライト監督のコメディタッチは
「ショーン・オブ・ザ・デッド」のノリが
今ひとつハマらなかった自分としては少々不安だったが
この、来日してすぐ
フジロックにポンチョで強行軍かます
音楽オタクな監督は期待を裏切らなかった。
トレスポの「Lust For Life」に匹敵する冒頭である。

ゲッタウェイドライバー。逃がし屋本舗。
クールでプロフェッショナルでなければ
成り立たない役柄だ。
「DRIVE」のライアン・ゴズリングのように
寡黙で、タフで
「TAXI」のサミー・ナセリのように
自分のテクニックに絶対の自信を抱き
「バニシング・ポイント」のコワルスキのように
大胆不敵でなければ
映画はたちまち失速しお縄頂戴である。
本作の主人公も寡黙な凄腕ドライバーだ。
赤のスバルでぶっ飛ばす。

しかし同時に、
B-A-B-Yのあだ名が意味するように
ケヴィン“カイザー・ソゼ”スペイシーや
以前は殺し屋トム・クルーズを乗せて
ひどい目に遭うタクシードライバーだった
ジェイミー・フォックスら
筋金入りの犯罪者達から
オトナの汚さと世間の厳しさを
その気はなかろうが教えられ
いつしか翻弄される、
監督の分身のごとく
やっぱり音楽オタクで
訳あってipodから離れられない
ヘッドフォンチルドレンな青年だ。
デ・パルマばりの長回しで
好きな子とイヤホンを片方ずつね。
ipodから何が流れているかは
観てのお楽しみ。

テクニックはプロでも
過去のトラウマから
オトナになりきれない主人公。
罪を償え!という声に背を向け
手を汚すことに躊躇し
やがて抜き差しならない状況に陥り
逃げるのをやめ徒手空拳立ち向かっていく。
この辺のクライムサスペンス要素も
テンポが良くて非常に楽しめる。
詰め込みまくってるのに
絶妙なバランスが保たれており
決して散漫にならない。
緻密に計算された見事な内容!

誰にでもハイになれる曲がある。

月曜の出勤時、満員電車内で再生する
ブルーハーツ。

クソ悔しくて田舎道をチャリで爆走しながらの
リンキン・パークか銀杏BOYZ。

裏切り者を一家もろとも皆殺しにする時に
エクスタシーのカプセルキメつつヴェートーベン。

いじめっ子共に反撃して耳を削いでやった
ジャンピンジャックフラッシュ。

聴いてる時の、無敵な俺。

この映画の原動力はそれだ。

ロックが流れている時の、
無敵で、完璧な俺。

スタイリッシュな映像に
ただフワッとロックを合わせているんじゃねえ。

ミュージカルと錯覚しかけるほど
すべてのシーンにおいて音楽が
世界をかたどるかのようにリズムを刻み
エンジン音、銃声、効果音さえもグルーヴと化す。

音楽の先に、映画があるのだ。

音楽が映画に付随しているのではない。

マニアックな選曲にニヤつくための
サブカルまがいな映画なんかじゃないのだ。

ジョンスペとQUEENが
運転席で流れたその時
目に浮かぶ光景を
完璧に再現した
ロックンロールムービーなのだ。

ロックンロールは今も鳴り止まない。
主人公と同じく
イヤホンして街を歩き
宅録に勤しむ音楽オタク達を
興奮させ、そして
オトナの怖さとけじめのつけ方も
同時に教えてくれる
最高のロックンロールムービー。

どうしてロックンロールを聴くとき高揚するのか、
この映画が教えてくれる。

イヤホンを外しても
ロックンロールが貴方の耳に
今も鳴り続けているなら大丈夫だと
この映画が教えてくれる。

退屈なんかする暇ないぜ。
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