Oto

ベイビー・ドライバーのOtoのレビュー・感想・評価

ベイビー・ドライバー(2017年製作の映画)
4.6
超好きだ…(この映画をきっかけに音と動きのシンクロ性を研究テーマにしてしまうくらいに影響を受けた)

予想外の連続で、タランティーノの影響を感じた(監督はレザボアの真似をしたらしい)。緊張と緩和がすごく上手で、主役2人はもちろん悪役の演技がとても良いので緊張感あるのに、‪笑えるシーンも多い。
前半の軽快さと後半の深刻さの対比が面白いし、因果応報のラスト(法廷)も好き。「虹」も伏線だったのか。

映画においていかに音楽が大事かわかる、サントラ欲しい。耳鳴りとか骨伝導とか、聴覚のデザインも全体的に素晴らしい。
MV的な動作とのシンクロも楽しくて、銃声も「テキーラ!」のタイミングも完璧で気持ちいい。自分もiPod Classic愛用してたの思い出した。
台詞の天丼も面白い、ファイトクラブよりモンスターズインクを選ぶあたり好き。こういうdetailを大事にしてる感じもタランティーノっぽくて好き。

ジャンル的にもミュージカルアクションって革命的だと思うけど、コーヒー買いに行くシーンとかチェイスとか、音楽と合わせるために何十テイクも取り直しているらしく、技術的にも凄まじい。
レフンの『Drive』に『Sing Street』を足したような印象と思ってたけど、『Blues Brothers』の影響が大きいって本人が認めてて納得。レッチリのFleaも『ハートブルー』へのオマージュってことかな。

スリルとかテンポを優先するためのある程度の"都合の良さ"とか削られた機微が許せない人も割といるんだなぁとレビュー読んでて思った。周りの意見聞いてると,音楽への思い入れとか知識も結構大事なのかも,登下校とか自習はずっとイヤホンしてる音楽オタクの中高生だったから自分は重なりすぎたくらいだったけど。
https://natalie.mu/eiga/pp/babydriver/page/4

オタクのための映画ばっかり取ってた監督が、音楽とアクションの一致・(イギリスでは難しい)CGを使わないカーチェイスが撮りたくなって、20年以上練ってアメリカで実現させたらしい。映画たくさん観ていても純粋に終始楽しめる極上のエンタメ作品ってなかなか出会えないのでとても貴重、DVDレンタルで小さい画面で観た人につまらんとか言われたくない。
アンセルくん同い年とか知ると、自分も頑張らねばと思う。

追記:ケンコバも2017ベストに挙げてて嬉しい。趣味が合う

(解説を聞いて)
映画オタクの監督だからこそできる膨大な引用の量(ミュージカル映画・逃し屋映画から、日本のアニメまで)とdetailへのこだわり。過去作でもミュージカル的な編集・演出は多いけど、元々MV作っていたらしく納得。
自分が気づかなかった伏線でいうと、opでデブラが通りかかっている(『汚れた血』の影響)とか、TV内のアニメ(Our gang)とファイトクラブの台詞も後から繰り返されているとか。とにかく無駄なシーンはなくて全て回収するし、歌詞と状況も常にシンクロ(別れの歌Easy、ラジオで聴くRadar love、母から卒業するEasy like sunday morning、ラストのBaby driver...)。カメラの動き(タコメーター、テキーラ)に関しては『ファントムオブパラダイス』の影響があるらしく観てみたい。カーアクションも銃撃戦もCGを使わずに音楽に合わせて撮影(元々スコセッシやタランティーノがやってた事けど、GotG、オデッセイとか音楽を上手く使った映画は増えてるし、チャゼルもクイックなパンが好き)。
https://youtu.be/RT9E1l6B3vk
キャラ設定も凝ってる。文字通り自閉的な赤ちゃんであるベイビーは、ずっと同じ服を着ている、交流を遮断する(サングラス&イヤホン&寡黙)、キッズメニューを眺める、嫌なことがあって耳鳴りがするときは音楽を聴いて避ける(親の死がトラウマなのは『トミー(The Who)』が元ネタ)。ドク(黒幕の慣例的な名前でアスファルトジャングルやゲッタウェイも同じ名前)は父親代わりだけど、iPodが母親代わり。だからB.A.B.Y.を歌うデボラにも母を感じて惹かれた(郵便局のおばちゃんを助けたのもそう)。Brighton Rockは、グレアムグリーンの同名青春小説からの引用で、主人公は逆に音楽が弱点だけど、同じくウエイトレスの聖女に愛され、その後追い詰められる(作者自身と妻を投影している)。ベイビーが聞いた「悔い改めよ」にも罪と向き合って大事なものを守れという意味があったし、実際に(セピア色で非現実感もあるけど)罪を償って終わる(『ブルースブラザーズ』のオマージュ)し、耳鳴りは消える。
こういう重さに気づかせないのが凄い。単純に楽しいから好きになったのもあるけど、ベイビーの成長を未熟な自分に重ねて観られるから好き。
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