踊る猫

ベイビー・ドライバーの踊る猫のレビュー・感想・評価

ベイビー・ドライバー(2017年製作の映画)
3.5
なんだ、このリアリティのなさは。いや「音楽を愛聴する凄腕のドライバー」という設定自体が無理の賜物なのでケチをつけるのは野暮というものだが、主人公が過去に負ったトラウマについても生々しく描かれるわけでもないし、今の生活についても生活感が匂うようなディテールに凝った描かれ方がするわけでもない。そう考えてみればこの映画のガンアクションやカーチェイスがどこか野暮ったく現実離れしているのも当然と言えるだろう(あんな細腕で二丁拳銃を扱えるか? というように)。音楽をこよなく愛しているのはわかるのだが、ボーズ・オブ・カナダからブラーからクイーンまで本当に雑食に取り入れて自分だけの世界を作り出しているあたり、自家中毒に陥っている感がなくもない。つまり、他者が居ないというか人間が描けていないというか。そして、そのマニアックな好みの中にどんな作家性も見出だせないから始末に負えない。エドガー・ライトの政治観も社会観も全然見えず、全てがフラットなのだ。そのフラットさに辟易してしまったので点は低くなったのだが、しかしこの路線を突き詰めて彼が他者と出会うとなにか面白い化学反応が起きるのではないか、という可能性があるのも確か。
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