ベイビー

アイリッシュマンのベイビーのレビュー・感想・評価

アイリッシュマン(2019年製作の映画)
4.0
もう、贅沢としか言いようがありません。

ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ、ハーヴェイ・カイテル、という名だたる名優たちを、名匠マーティン・スコセッシがまとめあげる…

数々のマフィア映画を世に送り出して来た面々が贈る、また新たなるマフィア作品。円熟を増した彼らだからできたであろう素晴らしい演技と演出。3時間30分という時間、ずっとダレることなく最後までしっかり楽しめました。

この物語は、ロバート・デ・ニーロ演じるフランク・シーランの回想からなる裏社会に生きる男たちのドラマ。全米トラック運転組合と闇社会との繋がり、ジミー・ホッファの失踪の真実などが、フランクの人生を通して克明に描かれています。

「ゴッド・ファーザー」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」「グッド・フェローズ」「カジノ」などのマフィア映画が好きな人にはたまらない作品なのではないでしょうか。

アメリカの1950年代から70年代半ばを描いた今作品。約四半世紀の裏アメリカ史を観ているようであり、スコセッシ監督やデニーロやアル・パチーノが活躍していた頃のアメリカの映画史を観ているようでもあり…

この作品を通してデニーロやアル・パチーノの昔の作品が脳裏をかすめます。その記憶と共にこうして円熟された彼らの共演を観る喜び。それをスコセッシ監督が演出するわけですから、贅沢としか言いようありません。

今回Netflixさんの配信予告があり、今作が観れる日をずっと楽しみにしていたのですが、この作品は間違いなく映画館で観るべきでしたね。これじゃあせっかくの高級料理を四畳半の部屋でチンしながら一人で食べているようなものです。少し遠出をしてでも映画館で観るべきでした。ああ、もったいない…

妥協のない映像。古い街並みや車を再現するだけでなく、各年代に合わせて名優たちが若返ったりしてるんですよね。それを見ているだけでも全然飽きないんです。

名優たち熟練の演技プラス、最新技術を使って演技だけではカバーできない見た目の若さをCG処理で補っているのですから、映像としての深みが違います。

たまに、ある主人公の半生を特殊メイクと演技力頼りで押し通す作品がありますが、僕はそれを見るたびに"頑張ってんな"と思うだけで、どことなく違和感を感じながら、"それが技術の限界だ"と思い見過ごしていました。

しかし近年のCG技術により、そんな違和感までも取り除くことが可能になりました。スコセッシ監督に言わせると、「これはCGでメイクアップをしただけのことであり、特殊メイクや見た目が近い代役をたてるよりも合理的である」とのことらしいです。

でもそれを可能にするにはそれなりの苦労があり、いくら顔を若くしても体の動きがおじいちゃんでは困りますので、あの名優たちも老体に鞭を打って、40代の体の動きを強いられていたとのこと。

「ハイNGでーす。今の動き64才でした」

といったようなご苦労がしばしばあったみたいです。

「人は年を取らないと、時間の速さに気づかない」

最後、孤独な老人となったフランクがいうセリフ。人生はアッという間で、終わりが見えはじめて、やっとその短さに気付きます。

それは人生の黄昏…

作品の最後の30分は、フランクたちのなんとも言えない孤独と哀愁が漂い、人生の"黄昏"、すなわち終焉への悲哀が色濃く感じられます。

今作の物語の締めくくりはそんな感じでしたが、しかしメイキングを観る限り、巨匠や名優さんたちは青春そのもの。まだまだ現役で、また新しい作品を作る意欲を感じられました。黄昏なんてまだまだ先の話だ、といった感じです。

今作はスコセッシ監督にとって「カジノ」以来、約25年ぶりのマフィア映画。デニーロとジョー・ペシのコンビもそれ以来ぶりということですが、今後もこの顔ぶれで、ドンドン作品を作っていただきたいものです。
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