ま2だ

レディ・バードのま2だのレビュー・感想・評価

レディ・バード(2017年製作の映画)
4.6
レディ・バード、観賞。

事前にあまり情報を入れず、勝手にHidden Figures的に様々な障害を乗り越えてある名門大学に入学した初の地方出身女性の半生の物語だと思っていたのだが全然違っていた。監督・脚本のグレタ・ガーウィグと主演のシアーシャ・ローナンの最良の組み合わせによる最良の青春映画。

地域内外の格差や学園内カースト、年相応にプロムとセックスをナチュラルに扱う、アメリカの地方高校生版ちびまる子ちゃんの側面を持ちつつ、中心に据えられているのは旅立とうとする子と親の物語だ。ローナンは傑作「ブルックリン」に続き、旅立つ娘の役がよく似合う。

「ブルックリン」では遠く海を隔てた母と娘の関係を描いていたが、本作では距離の近さゆえに衝突を繰り返す母と娘の姿が描かれており、その親しい間柄ゆえの些細なボタンの掛け違いの連続に、誰もが子の立場から、または親の立場から、思春期の記憶を呼び起こされるだろう。

自らをレディ・バードと呼び、ここではないどこかを志向し続ける思春期のイタさに満ち満ちた少女は、映画終盤でそこから一歩踏み出してみせる、というよりも、雛鳥が巣から押し出されるように飛び立つことになる。

映画時間内ではハッピーエンドまではたどり着かないが、いつか時間が解決するだろうという余韻と共に、母と娘をさりげなくサクラメントの街並みと重ねてみせる描写が素晴らしい。

両親、家族はもちろん親友や悪友、ボーイフレンドや教師たちにいたるまでキャラが立ちまくっているのもちびまる子ちゃん的で、この隙のないアンサンブルが、ローナンのコメディエンヌとしての資質と脚本の巧みさと共に、コメディ映画としての質を数段高めている。観賞中、劇場内で湧き起こる笑いの数は今年観たものでも最多の部類だった。

レディ・バードを取り巻く人々のまなざしに共通する愛情と、それに気づいたり気づかなかったりする青春っぷりに胸かきむしられること必至。観賞しつつフロリダ・プロジェクトの母娘、ヘイリーとムーニーについつい思い馳せてしまい、閉じられた環境から踏み出す意志や連れ出したりくれる存在の大切さを痛感する。

アラニス・モリセット、デイブ・マシューズ・バンド、ジャスティン・ティンバーレイクなど音楽の使い方も良かった。万人にお勧めしたい傑作。
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