mimitakoyaki

帰ってきたヒトラーのmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

帰ってきたヒトラー(2015年製作の映画)
4.2
これは面白かった!
コメディでありながら、かなりメッセージ性が強く、ドイツだけでなく、日本も世界も同じ問題を抱えていることに気付かせてくれ、考えさせられる作品です。

1945年、地下壕で自殺したヒトラーがなぜか2014年にタイムスリップしたという奇抜な設定で、もちろん死んだヒトラーが現代にいるわけないからと、誰もがソックリさんだと思って、クオリティの高いモノマネ芸として、TVのバラエティやトーク番組に出たり、YouTubeなどで拡散され、瞬く間に時の人となり一世を風靡するという話です。

これがヒトラーが現代に蘇ったら…というフィクションのドラマと、ヒトラーと彼を見出した落ち目のディレクターがドイツ国内を旅して周り、各地でヒトラーが実際に町の人にインタビューをするというドキュメンタリーが含まれていて、どこまでがフィクションでどこまでがドキュメンタリーなのか境目が曖昧でとても上手く作られています。

サシャ・バロン・コーエンの「ボラット」も、コーエンがカザフスタン人のボラットというキャラになりきってアメリカに乗り込み、アメリカ人のタブーに切り込んで行くというのがありましたが、その手法と似た感じで、今作では、ヒトラーが町の人に今のドイツについてどう思うかを尋ねるんですね。
そしたら、相手がヒトラーのコスプレをしてるっていうんで、嫌悪感を露わにする人もいれば、苦笑いしながらも相手したり、面白がる人もいたりと様々な反応があるのですが、給料上がらんとか、移民のこととか、何かしらの現状への不満というものがやはりあって、そこでヒトラーは人々の不満をうまく掬って、強い調子で扇動するんですね。
すると人々は、はじめはパロディ芸として面白がってたのが、だんだんそこに乗っかっていってしまう雰囲気になってきたり。

すごいのは、極右政党やネオナチにもゲリラ的に突撃インタビューしてたりするんですよね。
ネオナチにヒトラーが説教するというシュールな映像が笑えましたが。

ドイツはヒトラーによって戦後もかなりの苦汁を舐めてきたはずなのに、戦後、徹底的にファシズムを否定してきたはずなのに、1人のカリスマの登場で、やっぱり流されてしまう危うさが曝け出されていました。

ヨーロッパ各地でおびただしい数のユダヤ人やコミュニスト、マイノリティを虐殺し、独裁したヒトラー。
だけど、勝手に悪魔のような殺人鬼が国を乗っ取ったわけではなく、熱狂的に支持されて選挙で選ばれ、当時世界で最も民主的で先進的だったワイマール憲法の下で起きた事ということをあらためて突きつけられます。
と、同時に、扇動にメディアが加担した時の恐ろしさも、これまでにも今も日本でも見てきているだけにリアルに感じます。

折しも、イギリスが国民投票でEU離脱を決定したという衝撃的なニュースを聞いたばかり。
フランスでも極右政党が支持され、アメリカでは移民排斥を堂々と訴えるトランプが大統領候補となり、日本でも憲法を変えようとする安倍政権が来月の参議院選挙でどうなるか…。
世界のあちこちでナショナリズムが台頭してきている今、右寄りの扇動とどう闘うかみたいなことになってきているだけに、今見るべき示唆に富んだ作品でした。

雰囲気や扇動に流されず、ちゃんと中身を見て落ち着いて考えることが大事ですね。
EU離脱に投票した人がすでに取り返しのつかない後悔をしてるという話も聞きますし、とにかく選挙に行かなくちゃとあらためて思ったのでした。

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