wiggling

葛城事件のwigglingのレビュー・感想・評価

葛城事件(2016年製作の映画)
-
実際に起きた無差別殺傷事件を題材にした同名舞台劇の映画化作品。附属池田小事件をモチーフに、秋葉原通り魔事件など近年起きた事件をミックスし、事件の背景にある家族という地獄を丹念にかつ容赦なく描く。

事件の加害者葛城稔(若葉竜也)は職にも就かず実家にパラサイトする21歳。今は一発逆転のための準備期間だから静かに見守ってくれと言う。そんな状況に我慢ならない父親葛城清(三浦友和)は暴力的に振る舞い家族を精神的に追い込んでいく。
ついには母親(南果歩)が精神を病み、兄(新井浩文)はリストラを苦に自殺し、通り魔事件を起こした稔には死刑判決が下される。そして清は夢のマイホームに一人残され…、というお話。

この物語から得られる教訓は、事件の種はどこにでも潜んでいるし、自分が当事者(加害者本人や家族)でないことは単なる偶然に過ぎないという事に尽きますね。
この父親は自分勝手に過ぎるものの、特別凶暴だったり狂ってたりするわけじゃない。そこらにいる少々我の強いおっさんですよ。家族の愛し方を知らず、家族からも愛されていない。家さえ守って稼いでればそれでいいと思っている。自分の父親がそうだったり、もしかしたら自分自身がそうだったりしませんか?

そしてここで描かれる苦境に対するセーフティネットは日本に限らず非常に手薄で、彼らを救い出す手立てはほぼ存在しない。つまりこういう家庭は今後も生まれ続けるし、同様の通り魔事件もなくならない。

初めて見た稔役の若葉竜也が抜群に良いですね。こういうキャラって鬱っぽい演出をすることが多いと思うけど、彼は異常に口数が多い。饒舌だけど未熟な馬鹿を的確に演じている。
彼は事件決行に際して正装して出かけるんだけど、それがサイズの合っていないベージュの吊るしジャケットなんだよね。このいでたちが秋葉原事件の加藤智大そっくりで戦慄しましたよ。

死刑制度反対の立場で死刑囚である稔と獄中結婚する星野順子(田中麗奈)、分断した家族をつなぐ役柄として非常に良い仕事をしています。いちばんフィクション要素の高いキャラながら、それぞれの言い分を引き出す語り部を担っている。
いかにも長男らしい物静かで気の弱い役柄の新井浩文も最高ですね。面接で緊張のあまり自分の名前も言えなくなったり、とっくにクビになってるのに毎朝会社に行くふりをする姿に涙。舞台版では稔役を演じてるんですよね。
そして、三浦友和の鬼気迫る熱演がなければ本作は成り立たなかったでしょう。特にカラオケシーンと中華料理屋のシーンが絶品。黙って物思いに耽るシーンが実に雄弁なんだ。コンビニの冷やしとろろ蕎麦をすする姿がもうね…。

家庭を持っている人は観てみるといいんじゃないかな。できれば家族と一緒に。
wiggling

wiggling