かつきよ

マジカル・ガールのかつきよのレビュー・感想・評価

マジカル・ガール(2014年製作の映画)
3.7
暗く得体の知れない、恐ろしい映画。
3人の視点で物語が順番に綴られるアンサンブル。湿気と、爛れるような熱の両方を感じることができる悪意に満ちたヒューマン。
初手で選択肢を間違えてから、どんどん登場人物全員の人生が悪い方向に転がり続ける様を描いた作品。
見終わった瞬間、あーこれぞノワール映画だ……。と思いました。番人受けはしないけど、ノワール好きな人にはおすすめ。
過激さや衝撃ではなく、丁寧で静で、陰鬱とした救いのなさ。スペイン映画とのことですが、情熱的で激しさのあるお国柄のイメージからはかけ離れていて驚きました。
作中でも、サッカーとか闘牛とか、熱狂は国民性だ、みたいなセリフがあるのですが、「じゃあこの映画は何なんだ?」と思わせるようなくすんだ色彩と静寂。とても良い映画でした。

●魔法少女

日本の魔法少女が好きな夢見る少女アリシアちゃん。
この、「魔法少女」と言う文化が全面に押し出され、物語の核になるのかと思いきや、決してそうではありませんでした。
魔法少女の要素は、悲劇的なストーリーのキッカケでしかなくて、他の要素に置き換えてもストーリー自体は完成しそうなもの。
でも、冒頭とラストで出てくる魔法少女の要素と日本の曲……鬱屈として色彩を感じさせない映画の中で、場違いに映える曲や衣装が、不協和的な気持ち悪さと、悲しさと……やるせなさと、この映画の歪みを見せられているような気分になって、……とてもよい。
こんな暗く重苦しい映画で、日本の歌謡曲や魔法少女の衣装が出てきたら「奇を衒ってるな」と思ったり、「ギャグじゃん」と思てしまったり、陳腐なイメージになりかねないと思いますが、上手くバランスを取って、不気味さや哀愁を演出している監督は天才的だなと思いました。

●どこか馴染みのある雰囲気

監督は日本の文化に詳しいと言うか、ヲタク文化を好いていてくれるようで、魔法少女というのをテーマに盛り込んだのもそれが理由らしいです。
まどマギに影響を受けたと言う話も見かけましたが、まどマギほどの質量の映画からインスピレーションを受けて、それを自分なりに濾して、こんな形で出力できるのは正直に、すごい。
リスペクトはしてるし、影響は受けているんだろうけど、影響されすぎている……所謂、ひっぱられている感じはしませんでした。
外国の映画って、ハリウッド映画とか、イギリス映画とか、そんなのしか見なくて、たまにインドとかフランスとか他国の映画を見ると独特の雰囲気が慣れなくて、慣れない映画を見たな……と言う疲弊感を抱くことも……。その点、この映画はスペイン……外国の映画とは思えない馴染みやすさというか、日本人の感覚に通じるテンポや魅せ方を感じました。勘違いだったらすいません……。監督が日本ライクだって聞いて結構納得したので、わりと見やすい方だったと思います。

●多くを見せない・語らない演出

登場人物の背景や過去、つながりとか、なにが起こったのかだとか……色々明言されていなかったのですが、その気持ち悪さが、なんというか、心地よかったです。
情報が不足しているとか、もっとはっきり描いてほしい、という様な物足りなさは無くて、行動・言動を繋げていって、キャラクタや背景を想像するのがまた楽しい感じ。
多くを語らないという演出はエヴァに影響を受けたんだとかなんとか。それがピタッとはまっている気がしたので、内容云々よりも、その温度感がかなり感覚的に好ましいなと感じました。
とにかく、野暮を極力まで削った映画な気がします。多分あれってああ言うこと……と想像させておいて、そこに答えが提示されてたとしたら野暮だったなと思うものばっかり。答えを想像に委ねられすぎるのも好きじゃないのだけど、委ねられるのがこうも心地いい映画もなかなか久しい。

●おすすめではあるけど、万人ウケはしない

非常によくできた映画で、見る価値はあると思うけれど、マジカルガールってタイトルと日本の魔法少女アニメが出てくるって情報で飛びつくと、なかなかのずっしりと闇深い設定や展開に打ちのめされると思います。
鬱映画だと思っておいた方がいい。実際鬱とかそう言うレベルじゃ無くて……なんていうんだろう、不条理映画、というのか。
オチが綺麗に纏まってすっきり終わる感じでは無くて、結局どこまでいっても考えるのが楽しい映画。最後までこちら側に投げてくる。それをひっくるめて、ラストまで好きな映画でした。






※以下ネタバレ有り感想


























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※ネタバレ有り













●冒頭シーン

闘病的なストーリーだと聞いていたのに、「2+2は4」と言う謎のセリフから開幕。
手元しか見えない演出で、女生徒が先生を揶揄い、手紙を魔法のように手から消すシーンから映画が始まる。
このシーン何の意味があるんだろう、二人は誰なんだろう、ちゃんとそう言うの明らかになるのかな?って思ったし、色々考えさせられてグイッと引き込まれるOP。つかみは完璧
ついでにいうと、このシーンの二人、ちゃんと明らかになりましたね。
手紙を隠したのはバルバラで、揶揄われていたのは先生時代のダミアンだったんですね。

ラストでダミアンがやり返しすシーンは兎に角グッときました……。

●ダミアンは……

刑務所の中では模倣犯でかなり常識人な印象。元教師で、最初のシーンでもまともなこと言ってるし、生徒を叱っているし……とても犯罪者には思えない。
なのに、「真実」と称したバルバラの虚偽を聞いて、怒りと正義感に燃えて「暴行犯」をぶち殺そうと動く様はまるでプロの殺し屋。普段は常識的で理性的であろう人間なのに、たった一瞬で道を踏み外してしまう。
さらに、バルバラが襲われたわけでは無くて合意の上でルイスと関係を持ったと言う真実を告げられて、普通ならバルバラの虚言に気づいたらもうルイスを殺害する必要は無くなったわけですが……
ダミアンは素早くルイスを銃殺。
ここに至るまで、道を踏み外すことは覚悟していただろうけど、ルイスと会話をして相手を見極めようとしていたり、タイミングを図っていた節があって、どこまでも知的な印象だったのに……。店員二人も銃殺し、ルイスの家へ……

人を殺そう!って思ったきっかけはもちろんバルバラの為。そして、そのバルバラが合意で関係を持ったとわかった瞬間にルイスをぶち殺し、呆気に取られたような動きを見せるダミアン。引き金を引いたのは正義感からではなく怒りから……そんな気がする。
ダミアンって、どこまでもバルバラの虜なのかなと、なんとなく思いました。恋愛感情より強く、バルバラに魅せられているんじゃないかな。

そして、バルバラへの感情は自分のたがを外したり、自分を狂わせるって言うのを、本人が一番よくわかってる。だから、出社したくない、バルバラに会いたくないって言ったのかなぁと……。わりと真っ当で平凡な考察ですが……笑

ただ、信奉しててゾッコンとか、執着している、というよりは、頭では拒否していても本能的に逃れられない、魅了されているような雰囲気がひしひしと伝わってきました。バルバラに会うのが嫌だって言ってるし、最初のシーンだってバルバラとは敵対しているようなやりとりなのに、なにがどうなって虜にされてしまったのでしょうか。まさにもう一人のマジカルガール、バルバラ……。その余白を想像するのが楽しいんですよ

ダミアンは教師なのに未成年のバルバラと関係を持っちゃったから捕まったのかな、と思いましたが、改めて考えてみると、過去にもバルバラの為に人を殺したことがあって、それで捕まってたのかなと思いました。
バルバラが明らかにルイスを排除して欲しくて、それを促すように声をかけたのがダミアンである事から、「また殺してくれる」って思っての虚偽報告だったんじゃないかなぁ。
加えて言うなら、「守護天使」ってしきりに言ってたのも気になります。私の守護天使って表現は、恋人とか不誠実な関係より、自分にとって害である存在から守ってくれる(この世から消してくれる)守護者って意味なのかなと思ってみたり。

ジグソーパズルは、バルバラや過去から解放される事の象徴だったのかな。最後のピースが足りず、それを待っているのがルイスという脚本がいかにも、、、好きなんだなぁ。
バルバラの告白を聞いて、あとワンピースで完成するパズルを破壊していくシーンが印象的。連絡すれば取り寄せることもできたはず。壊したことには強い意志を感じる。

最後、携帯を消して、バルバラにやり返したシーンはぐっときたけど、どう言う意図があったのか、あの後どう言うふうになるのかまでは感じ取れなかった。考察サイトはやく巡りたい……!

●ルイス

theクズ
お前さえいなければ!一年中短パン(風評被害)の残念なおじさん。奥さんは病死とかなのかな。そこらへんはわからないけど、親子仲は悪くなかった……はず。

アリシアが白血病になる前から、本を売ろうとしていて売値にケチをつけてたくらいだから、身入りがなくて貧乏なんだろうな。でも、教師ってまともな仕事だったのになんでクビに?なったのかは謎。なんでそんな貯金もない。何でそんな貧乏なんだ……ここらへんもよく見たらヒントがあるのかな。

白血病で生い先短い娘が、求めるからタバコを吸わせたり、ジンを飲ませたりするのは……うーん。よくないけど、実際自分でも同じことしてあげそうで、責められない。

ただ、魔法少女のコスプレ衣装を買うために、宝石泥棒をしたり、人妻を脅迫するなんてもってのほか……。倫理観のかけらもないのかこのクズオヤジは……。そんなお金で夢を叶えてもらって喜ぶわけないだろう!!!なぜわからないのか……

バルバラと寝たのは、もう恐喝しようって心に決めてたからなのかな。それともそれもあったけど、普通に下心もあったのか
娘と一緒にいる時間よりも、酒を飲んでいたり、恐喝していたり、何か外で活動しているシーンの方が多く感じてしまって
アリシアが本当に求めるものは、残された家族の時間……一緒にいることだって、何で気づけないんだ……

善意から始まった物語のはずなのに……という感想を見たけれど、こんな的外れな善意あってたまるか。

●バルバラ

謎多き美女。
旦那さんは主治医だった人なのか。患者と結婚ってある?旦那さんって本当にバルバラのこと愛してるのかな。それもよくわからないし……何で結婚したのかも、二人がどう言う距離感なのかもわからない……無限に想像できてしまう。
でも、とりあえず、全身ボコボコの瀕死にされるよりも、不倫が旦那にバレるのが嫌だったって言うのは、バルバラの方が相当旦那さんに依存してるのは謎。精神的に病んでるだけじゃなくて、明らかに傷跡だらけの体、100%まともじゃない過去があるのに、それでもいいのか、その事情をどれくらい知っているのか……?

というか、ルイスもバルバラと寝た時に体みてるはずだよな……ドン引きしなかったのかな

とにかく、昔怪しいグループで働いてたのは確か。挿入なしとかありとか言ってたから、所謂体を売る仕事なんだろうけど
挿入なしでも稼げる働き口って発想がある時点で、SMを超えた大金持ちの変態趣味につきあう仕事も昔からあったんだろうな。

●ブリキの部屋とトカゲ部屋

バルバラといえば、ブリキの部屋とトカゲ部屋
ブリキの部屋の時点で超絶不穏で自分の想像で潰れそうになったけど、トカゲ部屋は想像を絶する感じがして、触れてはいけないこの世の闇のような気分になった……。

ブリキ部屋は、ブリキといえば全てが終わる
長ければ長いほど稼げるという事だけど、その呪文を忘れるほどの苦痛が与えられる?のかな
ただ、ママの斡旋だし、最低最悪ではない……のかな。ある程度の安全は担保されてる……のかな。

そのママが全力で否定して、これでもかと言うほどやめさせようとするトカゲ部屋……
想像もしたくない……何が行われてたんだろう。
多分自分が想像できるよりもさらに吐き気を催すような凄惨な事なんだろうけど

扉に挟まれていた手紙は、全てを止める呪文が書かれている……はずなんだろうけど
何も書いてない
終わるまで、逃げる事は許されないってこと?

もう
こういうの
怖いけど
怖すぎて好きだけど、想像はしたくない……

●アリシア

最大の被害者
アリシアの目でかすぎて、顔が人形みたいで可愛すぎて、その可愛さが異質で、この映画を彩っていた。けど、思った以上にストーリーに関わってこなくて、出てくるのは最初と最後だけ。

アリシア以外みんな悪いことしてたり、狂ってたり、異常だったり、見ていて同情できないところがあるけども、アリシアちゃんだけが無垢で、この映画における悪意を一身に受けた「魔法少女の形骸」って感じ。

もう少し待って、という小さな小さな願いさえも叶わなかった女の子。
少しだけ待ってくれたら、彼女の本心と本当の願いが父に届いたのにな。そしたら、こんな悲劇は生まれなかったのかな。

白血病で倒れて、常に元気がなかったけど、唯一女の子らしく元気に振る舞うのはお父さんの仕掛けた宝探しを遊んでいる時。決してお宝を見つけた時じゃないんですよね。

アリシアちゃんのキラキラ女の子ノートには、すごく可愛くてキラキラの文字と装飾で「ユキコのコスチュームが欲しい」って書いてあって微笑ましい(白血病だとわかっているとそれがまた辛い)

三つ目のページには、大きく余白を残して、黒一色で簡単に「13歳になりたい」とだけ書いてある
これを読んだ時のルイスの気持ちは計り知れないけど、せめて1と2の願いは叶えてあげようっていう親心もわかるけど……。それに囚われすぎて、アリシアを喜ばせようって言う本質を見失ってしまったのは何故。

たしかにアリシアはステッキを探していたかもしれないけど、それ以前に衣装を見てもそんなに喜んでなかったじゃん。すぐに着たがらず、後でって言われてたじゃん!
1と2は病気がわかる前の夢であって、もうすぐ全て失うってわかってるのにこんなもの与えられても……。

アリシアが望んだ魔法少女。その魔法少女になった姿を望んだのは父。
アリシアちゃんは最後、父が望んだ自分を見せて喜ばせよう、安心させようと思って、義務感とかから衣装を着ていたんじゃないかなと思いました。
アリシアちゃんが魔法少女になることはもう望んで無くて、楽しくもないけど、それで喜んでる自分が父の望みだからと……まさに大人のエゴと理想の押し付け。作られた魔法少女、作られた嘘。

それで部屋を暗くして待って、やっと帰ってきたと思って主題歌を流して電気をつけた瞬間、目の前にいるのは、服に血をつけた知らないおじさん

そのおじさんに銃を突きつけられ、
最後の瞬間、一度も目を逸らさなかったアリシアちゃんは、何を思っていたのか。
結局目を逸らしたのはダミアン

アリシアちゃんは殺されたけど、完全に勝負に勝っていた気がする

何だこの映画は……

何なんだこの映画は……


アリシアちゃんがひたすら割りを食う、他人にも肉親にも運命にも蹂躙される、存在レベルのリョナ映画。
未成年が肉体的に傷つけられる映画は苦手だし絶対見られないけど、それがなくてま、これはこれで辛い。なんで……


●魔法少女ユキコの主題歌

どう聞いても歌謡曲で、魔法少女アニメの主題歌には思えないミスマッチ感がある笑
どう言う意図があってこの選曲にしたのかはわからないが、もう少しあってるものがあったのでは?とは思う笑笑



【参考】

https://cinemandrake.com/magical-girl#toc6

→全体的に解説を網羅していてわかりやすい
加えて、この人の独自の視点の解釈は他に見ないもので、かつ腑に落ちる点が多々
着眼点も素敵だし、感性も豊か。映画と合わせて読みたい考察にランクインすること必至

https://koyuro.com/?p=12319

→考察や予想的な内容はないけど、語られていない部分をまとめてくれていたり、演者の情報、監督の情報など、豊富な情報を通して映画に新たな視点を与えるような解説を書いてくれている。合わせて読みたい記事

http://cinemaisland.blog77.fc2.com/blog-entry-1048.html

→非の打ちどころのない完璧な解説・感想
こんな文章書きたい

https://blog.monogatarukame.net/entry/MAGICAL-GIRL

→後半のアニメヲタク視点からの考察がそこそこ面白い
かつきよ

かつきよ