噛む力がまるでない

さざなみの噛む力がまるでないのネタバレレビュー・内容・結末

さざなみ(2015年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

 デイヴィット・コンスタンティンの短編小説を原作とした作品で、監督はアンドリュー・ヘイが務めている。

 まず邦題が秀逸である。原題『45 Years』に『さざなみ』というシンプルかつ深いタイトルをつけた配給会社はちゃんと内容を理解しているなと思うし、スマートに作品を配給しようとする意図を感じる。

 プロットのキモとなっている「夫のかつての恋人が当時の姿のまま氷河の中に埋まっている」というのが絶妙で、埋葬や散骨のように姿形がなくなったわけではなく、会いに行けば目視できる事実には異様なリアリティがある。ジェフ(トム・コートネイ)はどんどん過去に思いを巡らせていくし、ケイト(シャーロット・ランプリンク)にいたってはまったく知らない人間の人生と静かに争っており、人間は過去や思い出と戦っても勝ち目はないということをありありと感じさせる。
 そこから二人がどう移ろうかが焦点になるが、パーティー当日に突然愛情たっぷりに優しくなるジェフの態度にケイトはしっかりと応えられていない。おそらくラストの瞬間、ケイトの心はスイスにあるのだと思う。幸せとは一番遠いところに心を置いている絶望的なシーンではあるが、二人の別れがこれで決定的になると考えるのは早計で、劇中の一週間がいかに重かったかを改めて振り返ることにより、二人のこれからの人生が見た人の中で醸造されるんだと思う。とてもシビアなロマンス映画だった。

 俳優の演技に関しては申し分なく、シャーロット・ランプリンクはアカデミー賞にノミネートされただけあって、夫への戸惑いをほぼ内面からのアプローチで見せきっており、周囲からはいつも通りに見えるところがすごい。トム・コートネイの夫がまた何を考えているのかわからないふしがあって、本当にふらーっとスイスに行ってしまいそうな佇まいが良かった。二人の45年の時間を感じさせるやりとりも素晴らしかったと思う。