mimitakoyaki

さざなみのmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

さざなみ(2015年製作の映画)
4.3
土曜日に結婚45周年を迎えパーティを開く夫婦に、その週の月曜日、50年以上前に雪山でクレバスに落ちて死んだ夫の元カノの遺体が見つかったという知らせが届くことから、夫婦の間にさざなみがたつという話です。

やっぱりあたしは女ですからね、妻の方に感情移入しちゃいましたよ。
いくら相手は死んでるとは言え、その思い出を詳細に鮮やかに思い出し懐かしむ夫を見るのは良い気はしないわけだし、その思い出にとらわれて心が過去に行ってしまった夫を元カノに奪われたような気持ちにもなるだろうし、見つかったという遺体は今も若く美しいままで、情熱的に愛し合った時のままの姿でいるのも、今の年老いてしまった自分には敵わないものという感覚にもなりそうで。
過去のことだし、その人はもう死んでいるから馬鹿げていると思っても、嫉妬に駆られてしまう気持ち、すごくわかります。

もし彼女が生きてたら…?なんて質問、しない方が良いのに、彼女を否定し自分を選んで欲しくて、愛されてる事をちゃんと確かめたくて聞いてしまうんですよね、わかります。
それで、自分が言って欲しかった答えと違うこと言われた日にはねぇ…涙

夫が大切に隠し持ってた昔のノートとかアルバムとか、そんなん見たらあかんよね。
そんなんわかってるけど、それはもう気になって仕方ない、見ざるを得ないみたいな事になってきてですね、多分それやって良いことナシですよね。
嫉妬と不信感と悲しみと怒りが渦巻いて、自分や相手を見失ってしまう。

こうして心のさざなみがひたひたと大きくなっていくんですが、シャーロット・ランプリングがほんとに魅せるんです。
取り乱したり喚いたりなど感情を爆発させたりはせず、自分の中に抑え込んで、だけど心の中には渦巻いてる感じがすごく伝わってきます。
相手は50年以上も前に死んだんだし、夫が浮気したわけでもないし、誰も悪くないから余計にやり場がないんですね。
やっぱりいくつになっても自分が彼にとって一番であり特別でありたいのかなと思います。

もう70を過ぎた熟年夫婦なんですが、セックスするシーンもあって、妻が夫に目を開けてと言うのに、夫は目をつぶったままなんですよね。
きっと、あなたが想像してる相手は私ではなく彼女なのね…とか思ったらほんとに悲しいですよ。

こういう疑念というのは膨らみ始めたらなかなか止まらず、相手への不信感は募っていくものなんでしょうね。
はじめは小さかったひびが、大きなクレバスになっていく。

結婚45周年パーティ当日の土曜日、夫婦仲は夫の歩み寄りで修復されるのかと安堵していた中でのあのエンディング!
もうこれは、シャーロット・ランプリングでないと成立しない、彼女にしかできないラストでした。

45年間積み重ねてきた愛と信頼が、存在すらしないものによって揺るがされるという、怖くておもしろく、男と女や夫婦についていろいろと考えさせられました。

老いてもなお品があり美しいシャーロット・ランプリング。
70過ぎてスキニージーンズがあんなに似合うなんてないですよ。
とにかく演技も佇まいも、その存在自体に強烈に惹きつけられました。

32
mimitakoyaki

mimitakoyaki